スマートフォンやタブレットの普及で、遠隔診療がより身近なサービスになろうとしている。熊本地震の際には、医師が被災者の健康相談に応対し、威力を発揮した。

電話一本で医師に相談
電話一本で医師に相談
スマートフォンなどを通じて医師とのテレビ電話が簡単にできる。医師は、患者の体など示したい部位を赤ペンで指示できる(写真=的野 弘路)

 5月13日午前10時、医師の小川智也氏は、一本のテレビ電話を受け取った。相手は熊本県に在住の女性、年の頃は50歳前後。「どうしましたか」と小川氏が問いかけると、「昔手術した足が痛むんです」と女性は訴えた。小川氏はストレスによる心因性の痛みを疑った。今すぐ病院に行く必要性は少ないことや簡単なストレッチなどをテレビ電話でアドバイスした。15分弱の電話だったが「5分くらいで、女性の声色や笑顔で安心した様子が見て取れた」(小川氏)。小川氏と熊本県の女性をつないだのは、MRT(東京都渋谷区)が提供する遠隔診療サービス「ポケットドクター」だ。

 4月14日に発生した熊本地震では、今なお1万人近くが避難生活を強いられている。「避難している人のストレスや物理的な健康被害は増えるのではないか」。MRTの馬場稔正社長は、地震から5日後、同月内に予定していた本サービス開始に先駆けて、相談料を無料にした「ポケットドクター for 震災支援版」の提供を開始した。

 ポケットドクターは、スマートフォンやタブレットを使って簡単に医師に体調などを相談できるアプリだ。相談の仕方によって3種類のサービスがある。かかりつけ医による再診、予約相談、予約なし相談の3つだ。再診は、病院で初診を受けた後、再度診療を受ける時に利用できる。医療機関がポケットドクターを採用していれば、保険診療内で利用が可能。医師、患者ともに追加料金はかからない。

 予約相談は、日時を予約し、希望の医師に健康上の相談ができる。料金は1分300円。予約なし相談は、医師は選択できないが、夜間や休日などすぐに相談したいといった需要に応える。料金は月額500円から。予約なし相談は2016年度内の提供を目指す。

 予約相談と予約なし相談はいずれも保険適用外だ。技術開発は、ソフトウエア開発のオプティムが担う。まずは小児科やメンタルケア、在宅診療などの需要を見込む。再診については2019年3月までに1万以上の医療機関、予約相談は1000人以上、予約なし相談は1万人以上の医師の登録を目指す。

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