東電とプラットフォーム構想

 その壁が崩れるきっかけとなったのは11年に東電で起きた福島第1原子力発電所の事故だ。電力・ガス供給のあり方が見直され、業界の抵抗によって遅々として進まなかった自由化が一気に進展した。

 これを機に和田社長は事故の当事者である東電に急接近する。「東電の存在感は圧倒的。20年前から組んで仕事をしたいと考えていた」からだ。これまでニチガスの秋波に東電が応えることはなかった。だが事故後の環境激変で潮目が変わった。「新しいことにチャレンジしなければ生き残れないと考える人が東電で増えてきた」(和田社長)

 東電は日本最大のLNGの輸入企業。手元には大量の都市ガス原料がある。だが家庭向け都市ガスのノウハウが足りない。厳しい競争を戦った経験もない。福島原発事故費用を負担しなければならず、都市ガス事業に販促費用を大規模投入する余裕もない。

東電と組み、異業種が参入できる仕組みを構築
●ニチガスと東電の協業の枠組み

 こうした東電に足りないものが、ニチガスの手中にはある。和田社長は東京電力ホールディングスの広瀬直己社長(当時)や東電EPの小早川智明社長(同)、さらに経済産業省の幹部などと立て続けに会い、提携にこぎ着ける。

 16年、ニチガスは既存の都市ガス事業の原料調達先を東京ガスから東電EPに切り替え、さらに今後、両社で新しいエネルギー供給サービスを展開すると発表。
(ニチガスは8月3日に、東電EPと新会社設立について発表する予定)

 両社が組めば、電力とガスのどちらも展開できる。この枠組みを「エネルギープラットフォーム」として他社に提供する考えだ。これにより異業種の企業は主力事業にエネルギーサービスを容易に加えることができる。

 すでにニチガスは音楽放送大手のUSENと、プラットフォームの利用を前提に相互送客の準備を進めており、近く正式に発表する公算が大きい。加えて、様々な異業種の企業とも協議しているとみられる。

 プラットフォーム構想の中でニチガスが果たす役割は、都市ガス小売りの営業やガス器具の保守にとどまらない。同社が最も売りになると考えるのが、進化を続けてきたクラウド事業だ。

 ニチガスは14年までに、物流からガス器具の保守と保安、料金の管理、ガスメーターの検針まで、ありとあらゆる業務を順次クラウド化していった。これによりガスメーターの検針員から営業員まで、スマートフォン(スマホ)一つあれば基幹業務ができる仕組みを構築。「ここまで徹底してクラウド化ができているガス会社は全国的にも例がないだろう」と森下淳一常務取締役は自賛する。

ガス事業のあらゆる業務をクラウド化
●ニチガスが開発した「雲の宇宙船」
社員がどこでどんな作業をしているか、本社のモニターで把握し、効率的な営業や保守体制を構築(左)
ガスメーターの検針から入金管理、配送まで独自アプリで作業できる(右)