小売業の生存に4つの要素

コンテンツは外部からの仕入れではなくて自分で作っていく必要があると考えていますか。究極的には書店であっても独自コンテンツを作る必要があると。

増田:ネット通販市場の存在を前提としたとき、小売業は4つの方向を目指さなくてはいけません。プラットフォームが提案力を持ち、データベースマーケティングをし、SPA(製造小売業)をやり、店ごとに顧客に応える個店経営に向かう。小売業界で勝っているニトリや無印良品はSPAですよね。SPAや個店経営を支える上で、データは欠かせないし、それを提示できるプラットフォームも同時に必要です。

CCCが先日発表した徳間書店の買収は、出版分野でSPAを目指す動きといえますか。

増田:僕らは雑誌は得意です。一方で、書籍はあまりやったことがない。雑誌は広告収入ですが、書籍はコンテンツに特化していく必要がある。そうしたノウハウがないのです。

11年にMBO(経営陣が参加する買収)をして、非上場企業になりました。経営の自由度は高まりましたか。

増田:チャンスが広がりました。上場していたらできないことをやれている。今、僕らがやっていることは、株主に説明できないですよ。銀座で書店を開くなんて。

「世界一の裏方」に

増田社長は大学卒業後、婦人服の鈴屋に入社しました。なぜ辞めようと思ったのですか。

増田:10年間、鈴屋で働いて、もうデザインの時代じゃないと思ったからです。みんなが求めているのは、自分のスタイルを完成させるための情報になったのです。ライフスタイルを選ぶということを一番無意識にやっているのは、本や映画を見るときなんです。泣いたり、悩んだり、そこに本質を見つけるんです。

それでTSUTAYAを創業したわけですね。増田社長個人は、これから何になりたいというイメージなんですか。こうした事業を通じて、例えばジョン・レノンみたいな感じで、多くの人に影響を与えるようなことがしたいのでしょうか。

増田:モデルはありません。僕は単純に企画集団をつくりたいんですよ。僕が企画マンになっても幸せじゃない。データベースでひとを幸せにするような集団になりたい。AI(人工知能)をばりばりに使って。

13年からは指定管理者として、地方自治体の図書館事業を運営しています。最初の佐賀県武雄市図書館では、購入した書籍に古本があったり、埼玉のラーメンマップや00年代前半の資格関連本があったりと、選書が「ずさん」といわれました。

増田:中古本の仕入れ先に対して、当社がたまたま出資していたのです。説明責任の問題は確かにあったかもしれない。僕らはやはりすごく注目されていたし、僕ら自身も選書については、こういう考え方で、こういうことをやっているということを一つひとつ丁寧に発信すべきだったかなというのは、当時の反省です。

ご子息がファミリーマートのFC加盟店の経営をしてきたそうですね。

増田:うちの息子のビジネスの勉強はファミマでやっているのです。修業で、FCをやらせたんです。特にコンビニエンスストアは情報技術が進んでいるから。小売りの未来の一番のひな型だと思っています。なので、息子にそこで勉強してこい、と。

帝王学ですね。

増田:帝王学じゃない。教えないから、僕は。

これから企画会社として、どう成長していくのですか。

増田:僕のポリシーは、日本人が持っている利他の心を大切にすること。つまり人を浮かび上がらせて自分が浮かび上がるということです。利他の心は、グローバルで評価される一番の根源だと思っている。つまりビジネスでいうと顧客中心主義になります。

つまり、裏方でいい、と。世界一の裏方になるようなイメージですか。

増田:そうです。うん。それで全く問題ない。ただ、難しいのよ、これが。

傍白

 根っからの商売人。人を驚かせよう、喜ばせよう、というサービス精神が全身からあふれています。レンタルDVDのチェーンがなぜ家電店を手掛けるのだろうと疑問に思っていましたが、「CCCは企画会社」と聞き、理解できました。ネット通販が急速に膨張するなか、アマゾンで買えない価値を企画するのは興味深い挑戦です。

 Tシャツにジーンズ姿で若く見えますが66歳。ピラミッド型の社内組織の構造をフラットに改め、本社には社長室もありません。何事もオーナーに頼りがちな社風を変えようとしているようです。もちろん、自らの引退後をにらんでのことでしょう。その際には再び上場企業となるのか。相続まで考えれば、可能性はあるのでしょう。

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