「TSUTAYA」の看板でレンタル事業を軸に成長してきたカルチュア・コンビニエンス・クラブ。ネット時代の到来で、FC店主体の事業に強い逆風が吹き、創業オーナーの増田社長は正念場にある。逆境をバネに相次ぎ開く新型店舗の数々は、小売業の未来像を示せるか。

(日経ビジネス2017年5月22日号より転載)

<b>CDやDVDのレンタルを中心に展開する「TSUTAYA」の従来型店舗</b>(写真=的野 弘路)
CDやDVDのレンタルを中心に展開する「TSUTAYA」の従来型店舗(写真=的野 弘路)

 JR広島駅の南口に完成した銀色に輝く再開発ビル。その1~3階に4月14日、一見すると何の店なのか分からない商業施設が登場した。家電量販店大手のエディオンが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とフランチャイズチェーン(FC)契約を結び開業した「エディオン蔦屋家電」だ。

 通りを挟んだ向かいには、同業大手のビックカメラが昨年9月に大型店を開いたばかり。広島に地盤を持つエディオンとしては負けられない戦いだ。

 「友達から、面白いお店だと勧められたので、来てみた」。ゴールデンウイークに入った4月末の日曜日に来店した女性は話した。客がまばらなビックカメラに対して、エディオンは開業から2週間がたっても客でごったがえしていた。異業種のCCCとの提携という「奇策」は、「想定以上の集客と売り上げを上げている」(エディオンの久保允誉・会長兼社長)。

<b>広島の「エディオン蔦屋家電」。家電を全面に押し出さず、書籍やカフェスペースが目立つ</b>(写真=大亀 京助)
広島の「エディオン蔦屋家電」。家電を全面に押し出さず、書籍やカフェスペースが目立つ(写真=大亀 京助)

安売りの値札は排除

 家電業界のアウトサイダーであるCCCのアイデアを全面的に取り入れた約1万m2の大型店は、多くの点で従来の家電量販店の逆を行く。各フロアの中央には、ラウンジや書籍、雑貨、文具売り場などを配置。その周辺を家電売り場が囲むような構成だ。

 大量の家電を所狭しと並べて、安売りの値札をあちこちに貼り付けるような、従来型の家電店のスタイルとは無縁だ。開業時のチラシ配布も行わず、メーカーからの派遣店員も受け入れなかった。その代わり、プロのカメラマンや料理研究家などを従業員として雇い、売り場の「コンシェルジュ」として、丁寧な説明を心がける。いずれもエディオンにとってのみならず、家電量販店では異例の試みだ。

 エディオンの久保社長はこう戦略を語る。「家電業界で同じことをやり続けていてはシェア拡大を望めない。価格競争だけでは疲弊することは自明だ。今までのような目的買いではなく、まず来てみたくなる店を目指した」

 オープン前日の4月13日。新店の内覧会も、通常の家電店とは様子が違った。受付に置かれる名刺には高島屋、スーパーのユニーなど、家電以外の流通大手の社名も目立った。

 会場にはもう一人、久保社長の横で名刺交換に応じる男がいた。CCCの増田宗昭社長だ。増田社長は名刺交換を求める長い列に、大阪弁を交えて笑顔で応じる。旧知の小売業大手の社長が挨拶に現れた際には「用意してくれればやりますよ」と、威勢よく答えていた。

 小売業側が土地や建物などを準備してくれれば、CCCは自社が企画した最新型の店舗を、その企業と協力して開くことができる──。家電量販店だけでなく、競争激化と客足の鈍さに悩む小売業から、増田社長は「救世主」として注目されている。増田社長はエディオンのようなFCを増やす考えだ。