(日経ビジネス2017年5月22日号より転載)

轟音を響かせながら木材加工機が休みなく動き、目の前で、長さ12m、幅3m、厚さ30cmの巨大な集成材が次々にできあがっていく──。岡山空港から山間の道を進むこと1時間、中国山地に位置する岡山県真庭市の集成材メーカー、銘建工業の工場が姿を現す。ここで量産しているのが、新たな木質建材として世界的に注目されているCLT(直交集成板)だ。
CLTとは、細長い木の板を並べた層を、繊維が直角に交わるように互い違いに何層も重ねて圧着した集成材。従来の集成材よりもはるかに丈夫で、重量当たりの引っ張り強度はコンクリートの5倍に達する。鉄筋コンクリートの代わりに壁や床といった建物を支える「構造材」として使えるため、「木のビル」を建てることができる。1990年代から欧州で普及し始め、最近ではCLTを使った10階建て程度のオフィスビルや集合住宅が建設されている。
CLTは、製造時に多くのエネルギーを使い大量のCO2(二酸化炭素)を排出する鉄やコンクリートに比べて環境負荷が少なく、森林資源の活用にもつながる。数年前から日本でもCLTの利用が徐々に始まり、環境や社会に配慮した「エシカル(倫理的)消費」の流れも受けて注目されるようになった。
ビルやホテルに採用広がる

この新しい市場で先頭を走るのが、銘建工業だ。23年に製材所として創業した同社は、70年に当時はまだ目新しかった集成材の製造にいち早く参入。以来培ってきた木材を素早く正確に加工する技術の粋を集め、2016年に総工費36億円で日本初のCLT専用工場を完成させ、量産を開始した。CLTを製造する企業は国内に数社あるが、年産3万立方メートルという生産能力は群を抜く。
昨年7月に完成した奈良市の障害者福祉施設「ぷろぼの福祉ビル」は5階建てで、2~5階の壁と天井に銘建工業のCLTを採用した。
さらに大規模な建物でも採用が進む。長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスにある“ロボットによる接客”で話題になった「変なホテル」。昨年3月にオープンした第2期棟(2階建て、72室)の壁と床も銘建工業のCLTだ。木の温もりや香りを楽しめる客室が人気を博しているという。

銘建工業がCLTに着目したのは、06年のこと。中島浩一郎社長が欧州に出張した際、CLTで作られた数階建てのビルを偶然目にしたのがきっかけだ。「自分たちが長年手掛けてきた集成材に、こんな可能性が秘められていたことに衝撃を受けた。日本でも巨大な市場が開けるという予感がした」
ただし、建材として利用するためには、様々な規制をクリアしなければならない。施主をはじめ、建築士や施工業者などの関係者の理解も不可欠だ。
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