小さな一歩は2000年に英領バミューダ諸島で始めた再保険事業だ。欧米系の保険会社と交渉するノウハウを蓄積するため、他社の保険リスクを引き受けるシビアな交渉で担当者を鍛える狙いがあった。その後、全ての大型M&Aに携わることになる藤井専務もバミューダで経験を積んだ一人だ。

 海外武者修行を経験した人材を集めて、2007年に海外事業企画部を発足。買収を手掛ける体制を整えて、最初の大型M&Aに踏み切った。相手は英ロイズ保険市場で名の知れたキルン。940億円という買収額は当時の国内保険業界としては破格の規模だった。

 これを皮切りに、東京海上の海外M&Aは加速。2008年には4715億円で米フィラデルフィア・コンソリデイティッドを買収。2012年には米デルファイ・ファイナンシャル・グループを2150億円で傘下に収めた。

約10年で総額1.5兆円以上のM&Aを手がけた
●東京海上HDの主な海外買収・出資案件
約10年で総額1.5兆円以上のM&Aを手がけた<br/>●東京海上HDの主な海外買収・出資案件

 3社の買収に投じた総額約7800億円に対し、3社合計の純資産額は約4600億円。差し引き3200億円の上乗せ分を払ったが、2016年3月末までに3社が生み出した累計利益は4000億円に上る見通しだ。

 買収した海外子会社は会社役員賠償責任保険や農業保険などの得意分野をそれぞれ持っており、それを持ち寄ることで多様な保険需要を持つ顧客を東京海上グループだけで囲い込めるようになった。HCC買収で永野社長が「高値づかみ」の声を気にもとめなかったのは、海外事業企画部が発足して以降の経験と実績があるからだ。

 海外主要子会社の首脳はすべて東京本社の重要な会議に呼び、グループの意思決定に参加させるようにしている。こうした「委員会」はM&Aや運用、IT(情報技術)などに細分化され、それぞれに知見を持つ幹部が積極的に参加している。永野社長は「結局、才能のある人材に投資したということだ」と話す。世界中の子会社からアイデアや情報を吸い上げて共有し、それを他の子会社のビジネスに生かす狙いだ。

 世界でトップクラスの保険会社には、いくつかの共通点がある。損保は自然災害など地理的なリスクが経営に大きく影響するため、営業地域を分散させるためのグローバル化が必要になることは言うまでもない。その上で違いを出せる分野が「生命保険」だ。「世界トップクラスの保険会社は、多くが生保事業から発祥している」(大手生保首脳)。海外で勝ちぬいていくためにも、一般的に損保に比べて収益性が高い生保の育成が不可欠となる。

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