世界一の売り上げを誇るヤマハ
●世界の楽器メーカー・卸売業の売上高ランキング
出所:MUSIC TRADE「2014世界の楽器メーカー、卸業225社ランキング」

 そのためには技術のさらなる向上が欠かせない。100億円を投じて創設する「ヤマハイノベーションセンター」はその象徴的存在だ。組織上の改革のみならず、物理的にも全国の技術者を静岡・浜松に結集し、研究開発の本拠地を作り、2019年から稼働させる。

 目的は、最高級の楽器を作ることだけにとどまらない。「音の伝道師」としての存在感を高めることも狙いの一つだ。ヤマハには、音に関連した技術資産が数多く存在する。鍵盤をたたく動作などを捉えるセンシング技術、音の波長に加工を施す信号処理技術、雑音や不要な音を調音・防音する技術。こうした技術を活用すれば、「音周辺事業」はまだ拡大の余地がある。

“ヤマハの常識”を捨てる

 ヤマハの歴史をひもとけば、技術の横展開はお家芸だ。1954年には、戦時中のプロペラ技術を生かし、バイク製造を開始。後のヤマハ発動機を生み出した。ピアノでの木工技術をベースに、家具を製造していたこともある。

 一方、過去と違うのは、技術だけでモノが売れる時代ではないということだろう。「お客さんはモノでもサービスでも、その価値を買うようになっている」(中田社長)。単なる技術の転用ではなく、潜在需要を見極めて技術を活用することが重要だ。そのために今年5月には、ヤマハの全製品のマーケティング戦略を統括する部署を設置した。ヤマハの歴史上、部署名に初めて「マーケティング」という文字が入った。

技術の横展開は「お家芸」
●ヤマハの技術展開の歴史

 「従来は、営業もマーケティングも同じという社内の雰囲気が大きかった」と大池真人・取締役上席執行役員は省みる。マーケティング統括部の役割は顧客に売り込むのではなく、顧客と対話すること。マーケティング統括部長に就いたのは、長らく楽器全般の営業を担当していた大村寛子氏だ。

 「ヤマハの中では従来、アコースティックピアノ以外はピアノと認めないという風潮があった。でも、電子ピアノもお客様がピアノと思えばピアノだというように、顧客の視点に切り替えた」(大村氏)。

 顧客視点に立った商品は、既に成功を収め始めている。例えば、2014年に国内で発売した3万円台の電子ピアノ「P-45」。当時はブランドの毀損になるのではという不安もあったが、結果は「大成功」(大村氏)。「弾きたい、でも高い」という利用者の心理を捉えて、Pシリーズ全体で累計100万台のヒットとなった。音量を調整できる練習用の「サイレントシリーズ」もマンションなどでは大きな音が出せない、他人に聞かせたくない、といった声から生まれた。