長い冬の時代からようやくヤマハが立ち直ろうとしている。少子高齢化が進み、「楽器を出せば売れる」時代はとうに終わった。新興国向けや新規ビジネスで「音のヤマハ」へ自らを刷新する。

昨年8月の「渋谷ズンチャカ!」の様子。おのおの楽器を持った300人が渋谷の街を練り歩いた

 昨年8月9日、東京・渋谷の街中を300人がパレードした。手には思い思いの楽器を持っている。トランペットや三味線、果てはそろばんをカシャカシャと鳴らしている人も。気温33度の灼熱の中、ハチ公前、国道246号と1.4kmの道のりを練り歩いた彼らが目指したのは宮下公園。そこには1万人の参加者が集まり、参加型のコンサート、のど自慢、手作り楽器の製作などが行われていた。

 成功をバネに今年9月にも開かれる「渋谷ズンチャカ!」。この音楽イベントを仕掛けたのがヤマハだ。2014年、当時の桑原敏武・渋谷区長が「音楽で渋谷を盛り上げられないか」とヤマハに相談を持ちかけたのがきっかけだった。

 桑原前区長が想定していたのは、複数の有名人を招聘した「音楽フェス」のようなもの。一方、ヤマハが提案したのはその逆だった。「渋谷には個性の塊のような人がたくさんいる。その人たちを担ぎ出して、イベントにしたらどうでしょうか」。同時にこうも提案した。「ヤマハという名前は出しません。渋谷の若い人たちが自らやるというスタイルでいきましょう」。

ピアノの需要はピークの5%

楽器が6割以上占める
●ヤマハの事業領域(2016年3月期売上高)

 イベントでヤマハは“黒子”としてサポート役に徹した。「企業名が出ると、若い子はしらけるじゃないですか」と担当したヤマハミュージックジャパンの事業開発部・佐藤雅樹部長は笑う。

 ヤマハでは今、こうした音楽を起点にしたコミュニティー形成事業を全国に広げている。JR水戸駅の駅ビル活性化では主婦を中心としたジャズバンドを作り、千葉県船橋市のマンションでは住民同士のブラスバンドの結成、育成に携わった。現在ではこうした活動が常に30件程度全国で進行している。

 CSR(企業の社会的責任)活動として活動しているのではない。本業として音楽の普及にいそしんでいるのだ。こうした活動はヤマハの危機感の裏返しでもある。佐藤氏は「少子高齢化の課題先進国として、商品営業、楽器を中心としたビジネスから一歩外に出たことをやらなくてはという課題意識があった」と狙いを語る。

 国内の楽器市場は縮小している。1980年に年間30万台あったアコースティックピアノの出荷台数は現在1万5000台を割っている。企業間の競争も激化している。中国では安価にピアノを提供するパールリバーがヤマハの販売台数を追い越さんとし、韓国の三益楽器は河合楽器製作所の発行済み株式をじわじわと買い増している。5年前、ヤマハと共に「2強」の一角を占めた河合は現在6位に転落。海外勢は生き残りをかけて積極的なM&A(合併・買収)を展開している。

ピアノを巡る競争は熾烈を極める
●世界の主なピアノメーカー