家電や自動車メーカーに納入するSoCそのものは、半導体メーカーがMPU以外の様々な機能を付加して開発・製造・販売する。アームの収入源はメーカーから得られるライセンス料と、半導体出荷数量に応じた1個当たり数円から10円程度とされるロイヤルティーだ。中心にいるアームは小さくとも、周囲にいる半導体メーカーを巻き込むことで大きな遠心力を生み出している。

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 一方、財務面から見た特徴は、生産しないことで実現した「持たざる経営」だ。高収益体質の理由はここにあるが、工場を持たないだけなら半導体の設計と開発を手がけ、生産はファウンドリー(受託生産会社)に任せるファブレス(工場なし)半導体メーカーも同じだ。だが、アームはMPU設計という中核業務を担い、ライセンスビジネスに特化したことで、さらに先をいくビジネスモデルを実現した。

 アームのビジネスを言い換えれば、250社あるパートナー半導体企業からMPU設計を外部委託されているようなもの。各社バラバラに開発するのに比べて、安くなるのは当然だ。

 半導体メーカーの顧客である家電メーカーのアーム人気も高い。半導体上で動くソフトの書き方はMPUによって決まる。昨年秋から製品にアームMPUを採用した富士通セミコンダクターの井上あまね執行役員は、「アームMPUを採用した結果、顧客企業からは『技術者が慣れているのでソフト開発が楽だ』と言われる」と明かす。

株式市場の評価はうなぎ登り
●英アームの株価推移
株式市場の評価はうなぎ登り<br />●英アームの株価推移

 アームMPUの採用後は、囲い込み効果も期待できる。MPUを替えようとすれば、これまで作ったソフトをすべて書き換えなければならないからだ。アームMPUを継続すれば、過去のソフトがそのまま使えるメリットは大きい。

 さらに興味深いのは、アームのビジネスモデルがそのまま買収防衛策になっていることだ。昨年、アップルによる買収観測報道が出て、株価が上がる局面があった。だが、アームのイーストCEOは「誰もアームを買う必要などない。それが我々のビジネスモデルの意味だ」と一蹴してみせた。

 少し説明が必要かもしれない。アームは必要なMPU設計情報をすべて、ライセンス契約を結んだ半導体メーカーに提供している。アームが半導体メーカーから得るのは「ライセンス料が数億円。それにロイヤルティーとして半導体価格の1~2%」(イーストCEO)だけである。それに対してアームの時価総額は1兆円を超える。キャピタルゲイン(値上がり益)狙いなら話は別だが、純粋に技術が欲しいなら、ライセンス契約を結んだ方がはるかに安上がりなのだ。

シリコンバレーでは生まれ得ない

 この特異なビジネスモデルは、一体どのように生まれたのか。源流をたどると、かつて存在した教育用コンピューターメーカー、英エイコーン・コンピューターに行き着いた。

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