アームの勢いは、「ウィンテル」と呼ばれる、IT産業を支配してきた秩序さえ変えようとしている。パソコンのOS(基本ソフト)「ウィンドウズ」と、心臓部のMPUを支配するインテルから取った造語で、両社の蜜月ぶりとIT市場での寡占を象徴する言葉でもある。

英アームホールディングスの沿革
英アームホールディングスの沿革
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 だが今年1月、MSは次期OS「ウィンドウズ8」を、インテルだけでなくアームのMPU上でも動作させると発表した。インテルの強さの源泉であったウィンドウズ対応MPUの技術独占。その半分をアームが奪い取ったのだ。

 きっかけは、アームMPUを採用したiPhoneやアンドロイド端末が、MSの独壇場だったパソコン市場を侵食し始めたことだった。MSは、早ければ来年にも発売すると見られるウィンドウズ8で巻き返すためにも、アームとの提携が不可欠と判断したのだ。

 アームのウォレン・イーストCEO(最高経営責任者)は「パソコン市場に参入するうえでの障壁が取り払われた」と歓迎する。パソコンへの参入を機に、さらに高性能なMPUが必要となるサーバー向けビジネスにも進出する計画だ。米調査会社のIDCはアームのMPU設計を採用するパソコンの世界シェアが、2015年までに13%に拡大すると予測している。

 アームは現時点でも幾つかの数字でインテルをしのぐ。アームが設計に関わった半導体はスマートフォンやタブレット、家電、ゲーム機、自動車など様々な用途向けに、年間約61億個が出荷されている。ガートナーによればインテルは3億2000万個前後と見られ、パソコンとサーバー向けがほとんど。営業利益率もインテルが32.1%(2011年4~6月期)に対して、アームは同44.5%と上回る。インテルも低消費電力のMPUを開発して家電や携帯端末に向けて売り込んでいるが、現時点でアームの牙城は揺らいでいない。

米インテルをしのぐ指標も
●アームとインテルの比較
米インテルをしのぐ指標も<br />●アームとインテルの比較

 アームはなぜ、売上高436億ドル(約3.4兆円)の巨人、インテルの向こうを張って勝負できるのか。

 その答えは、アームが築いた特異なビジネスモデルにある。

 アーム日本法人の西嶋貴史社長は「アームの周囲では数十兆円のビジネスが回っている」と説明する。現在の半導体はSoC(システム・オン・チップ)と呼ばれ、MPUのほか、メモリー管理や通信など様々な機能が1つのチップ内に収まっている。その中のMPU設計を手がけるのがアームだ。

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