金もうけより価値の提供

 エプソンが新規事業に取り組む中で、碓井社長ら経営陣や開発現場が改めて意識するようになったことがある。「自社ならではの価値を生み出せるかどうか」だ。

蓄積した技術が新製品に息づいている
●エプソンが持つ既存技術の応用例

 井上常務は低迷が続いた当時について、「ビジネスをしたい、お金をもうけたい、という考えが強くなりすぎていた。新しい価値を提供するという発想が薄まってしまった」と振り返る。

 企業として利益を上げることは間違ってはいない。ただ、目先の売り上げにまい進するあまり、イノベーションを起こすことがおろそかになっていた。事業ごとにビジネスを進めていたことが非効率さも招いていた。「半導体は時計には供給していたがプリンターには出していないし、液晶の技術を内部には供給していない。そんなもったいないことが起こっていた」(井上常務)。

 その反省から、2007~08年にかけて当時常務だった碓井社長と経営企画部長の井上常務はそれぞれの事業や要素技術をすべて書き出し、各事業の関連を一目で見て分かるようにした。

 碓井社長は「顧客の考えで自分たちの価値が決まってしまうような製品はやめようと決めた」と言う。エプソンのモットーは「省、小、精」(エネルギーを省く、モノを小さくする、精度を追求する)。これを追求するために、社内の技術を棚卸しし、事業間の連携を進めてムダが少ない組織に作り直した。

 碓井社長がトップダウンで次に進むべき方向を示し、それを受け止めた開発現場が手の内にあるリソースを使いながら、最終製品まで作り上げる。顧客の声や市場のニーズを聞くだけでなく、自らの価値を徹底的に突き詰める。それこそが、エプソン流イノベーションだ。

(日経ビジネス2016年5月9日より転載)