日本や韓国の電池メーカーを回っても「実績がない」と門前払いされていた同社は、この試練を機に戦略を転換。中国の電池メーカーに目を向けたのだ。

 07年当時、ノートパソコンやデジタルカメラなどでリチウムイオン電池の需要は既に拡大していた。日系大手商社から転じた大内秀雄取締役を中心に、中国の電池メーカーに猛アタックを開始。「売り上げが全くない状態で、200社は回った」と大内取締役は話す。

 08年に初めて売上高を計上した。わずか月1000万円程度。だが、その翌月は3000万円、翌月は7000万円……。中国の電池部品商社、シュランなどを顧客として抱え、単月売上高が1億円を突破するまで半年もかからなかった。

 日本で資金調達と先端技術を、韓国で工場を、そして中国で市場を、という日韓中の役割分担は、2つの試練で明確になった。中国での実績が認められて、米国の電池メーカーA123システムズやLG化学などが顧客に加わった。16年12月期の売上高は米国や韓国向けが伸び、中国以外が約50%を占めるまでになった。

 試練を乗り越えたダブル・スコープにとって、次なる転機は、まさに今訪れようとしている。

 LG化学のエネルギー部門でマネジャーを務めるユン・スンシク氏は本誌の取材に対し、同社と独VWの2社が次世代リチウムイオン電池の共同開発を始めたことを明らかにした。VWが20年以降に販売するEVに搭載することを狙う。電池コストを現状の半分以下まで低減するのが目標とみられる。

独VWのEV向け電池にも参画

 ユン氏はこのプロジェクトにダブル・スコープが参画することを明かした。「電池メーカーにできることには限界がある。ダブル・スコープにはコスト競争力を生かしてぜひ協力してほしい」

 電池部品の供給不安は、EVを量産する自動車メーカーにとって悩みの種だ。それは、セパレーター供給を住友化学1社に頼る米テスラとて例外ではない。各社が正極材など他の電池部品を含め、2次部品メーカーと直接交渉するようになってきたのはそのためだ。

 VWだけでなく、ダブル・スコープは日米欧の自動車メーカーや自動車部品メーカーとも定期的に協議の場を持ち始めている。韓国工場を訪れる自動車メーカー関係者も増えている。

 需要拡大を見据えて、現工場から数十km離れた場所に20万平方メートルの土地を取得し、造成を始めた。「50万平方メートル以上の次の工場用地も探し始めている」(崔社長)。投資を拡大するのは、受注の見通しが立っているからにほかならない。ダブル・スコープは、その名の通りEV時代の到来と成長の道筋の両方を既に見通しているようだ。

INTERVIEW
崔 元根社長に聞く
参入障壁が高いからチャンスがある
(写真=吉成 大輔)

 IT(情報技術)産業の覇権争いの通説を知っていますか? 半導体の集積率は、1.5年で2倍になります。これがムーアの法則です。同様に、液晶パネルは解像度と画面サイズが5年で2倍になる。電池は容量が2倍になるのに10年かかる。

 技術の進歩のスピードが一番遅いのが電池です。それだけ、産業構造も変化しにくいといわれてきました。

 当社が市場に参入した当時のリチウムイオン電池のセパレーター市場は、日系メーカーだけでシェアの合計は70%。しかも技術の進歩が遅い。参入障壁は高いといわれていました。

 私は、そこに逆にチャンスがあると思ったのです。技術の進歩が遅いということは、後発でもキャッチアップすれば戦える。寡占市場ということは、競争相手が少ないことを意味する、と。

 論文もない、特許を読んでも分からない。そんな状態で開発をスタートしましたが、不思議と自信がありました。仲間を信頼していたからです。ダブル・スコープにスター技術者はいない。でも、知恵を集めれば大きなことを成し遂げられると。

 材料の配合レシピの開発に2年かけました。でも、本当の競争力はそこにはないと分かっていました。だからこそ生産技術を磨いたのです。当社の戦略はシンプルです。日本の競合メーカー製とほぼ同じ高品質な製品を、彼らの3分の1の価格で売る。先端技術を安く売る。これまで世界を席巻した日本メーカーが得意なことをそのまま、まねしたんです。ソニーだってユニクロだって日本電産だってそうでしょう。

 この値段だから中国でも売れる。中国でも地場のセパレーターメーカーが台頭しています。我々は彼らと価格競争しても勝てる。しかも品質はトップクラスです。中国では電池の発火事故が多発していますが、当社のセパレーターを搭載した電池の事故はこれまで1件もありません。

 この10年、中国勢とずっと戦って勝ってきました。半導体のような装置産業になったら負けるのではないかとの声もありますが、今まで勝ってきたのに急に負けることはありません。セパレーター工場は人件費の比率が低く、生産コストはどこで作ってもほぼ同じ。負けるわけがありませんよ。(談)

(日経ビジネス5月8日号より転載)