
天才か、はたまた詐欺師か ──。
2005年、電池部品メーカーのダブル・スコープを創業したばかりの崔元根(チョイ・ウォンクン)社長と面会した日本のVC(ベンチャーキャピタル)の担当者は、こぞって首をかしげた。「この男、本物か」と。
リチウムイオン電池の性能と安全性のカギを握る「セパレーター」を開発するというが、生産設備を持たず、量産できるかも分からない。あるのは、小さな実証ラインで作った試作品のみ。
「大丈夫かいな」。ガムテープのように巻きつけられた白い試作フィルムを見て、三菱UFJキャピタルの清水孝行執行役員は、当時、率直にこう思った。
それでも「私はこの分野で絶対に成功する」と崔社長は自信満々。映画「釣りバカ日誌」で学んだという流暢な日本語で情熱的に事業計画を話す姿は不思議な輝きを放っていた。清水執行役員はダブル・スコープの技術と将来性を約1年半かけて検証。「この人の言うことなら信じてみよう」と思い、最終的に約1億円を投資した。他のVCも崔社長に魅せられて投資を決めた。
天才か、詐欺師か。VCにとってのその答えは既に出た。11年、ダブル・スコープは東証マザーズに上場。三菱UFJキャピタルは出資額の数倍のキャピタルゲインを得た。急成長に伴い、15年には東証1部に指定替えした。
崔社長は、韓国のサムスン電子出身。今や同社の中核となった液晶事業の商品企画畑を歩んだ人物だ。当時、液晶事業を拡大する旗振り役だったのは、現会長の李健熙(イ・ゴンヒ)氏。その下で崔社長は昼夜なく猛烈に働いた。
このサムスン時代の経験が起業のきっかけとなった。液晶事業で課題だったのは部品の調達。とりわけ光学フィルムは日米欧のメーカーに握られていた。「最も利益率が高いのは付加価値の高いフィルムだ」。商品企画をすればするほど、この思いは強くなった。
そんな時に出会ったのが、その後、創業メンバーとなる偏光板フィルムを開発する韓国人の技術者たちだった。00年、崔社長は10年間勤めたサムスン電子を退職。その技術者たちを誘って、起業へと踏み出した。
日本のお家芸に後発で参入
ダブル・スコープの主力製品のセパレーターは正極と負極を行き来するイオンを通すフィルムの一種だ。当時、セパレーターは日本のお家芸とされ、世界トップの旭化成、2位の東燃ゼネラル石油(現在は事業譲渡により東レ)で世界シェアの過半を占めていた。
「ベンチャーに作れるわけがない」。そんな見方を覆してダブル・スコープは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続け、17年12月期の売上高は120億円を見込む。世界シェアは15年時点で8位(富士経済調べ)。16年はさらに順位を上げたとみられる。売上高営業利益率は20%を超え、他のフィルムメーカーと比べても優位に立つ。
同社にとって何よりの追い風となるのがEV(電気自動車)の普及だ。富士経済は、リチウムイオン電池の世界需要は、EV生産の拡大により20年には現在の約1.5倍に当たる3兆2000億円まで伸びると予測する。

独フォルクスワーゲン(VW)など欧米各社はEVの投入を20年以降に加速させる計画で、その後も高い伸びが続くことは確実視されている。
ダブル・スコープが狙う20年の売上高は500億円。「25年には最低でも1000億円を目指す」(崔社長)。まさにEV時代の寵児になろうとする。

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