業界の盟主セブン&アイのカリスマ経営者が退任し、ファミリーマートは統合で2位に浮上する。規模で3位に転落するローソンは、抜本的な事業の「作り直し」に生き残りをかける。加盟店の業務を肩代わりする「セミオート発注システム」で、新たなコンビニ像を模索する。
玉塚元一会長のインタビュー記事(※取材当時は社長)も合わせてお読みください。
※玉塚元一氏は取材時に社長だったため、記事中の肩書は当時のままになっています(2016年6月から会長)。
●入社式で伝えたトップのメッセージ

「環境の変化は強烈なチャンス」「ガラガラポンをして、我々の商売を支える全ての仕組みを作り直す」──。
4月1日、都内のホテルで開かれたローソンの入社式で、174人の新入社員を前に、玉塚元一社長は熱弁を振るった。コンビニエンスストア業界が新たな競争のステージに突入したことは、本誌の時事深層でも伝えている。業界再編で3位に転落するローソンも、トップのセブン-イレブン・ジャパンに追いつくべく、今年度から「1000日全員実行プロジェクト」を始めた。
全国1万2000店の売り場から本部の組織、経営体制まで、全てを刷新して、ローソンの土台を作り直す改革だ。
ローソンは、業界トップのセブンと比べて何が弱いのか。コンビニチェーンの稼ぐ力を示す日販(1店当たりの1日の売上高)を比べると、セブンが65万6000円なのに対して、ローソンは54万円(ともに2016年2月期)。玉塚社長は「店舗の偏差」が要因と指摘する。質の高い店舗はあるのだが、水準の低い店舗も多く、平均日販が上がらないわけだ。
コンビニの加盟店オーナーになる場合、多くの人はまずセブンの門をたたく。そのためセブンには良質なオーナーが集まる。統率力が高く、鈴木敏文会長というカリスマ経営者の絶対的な指示を、店舗経営指導員が全国の店舗に行きわたらせる。これがセブンの強さの源泉で、こうした組織風土は一朝一夕にまねできるものではない。
そこでローソンの新浪剛史前社長はセブンとは異なる、「個」を育てる経営を進めてきた。全国を8つの支社に分け、各支社長に大幅に権限を委譲した。全国の店舗を画一的に管理するよりも、地域ごとに異なる顧客のニーズをくみ取り、臨機応変に戦える組織を作って、加盟店オーナーの士気の向上を狙った。こうしてローソンは業績を伸ばしてきたが、権限委譲型の経営は、弊害も生んだ。「偏差が拡大する方向に遠心力が働いた」と玉塚社長は明かす。
2016年2月期、ローソンの連結決算は、買収した映画館事業などが寄与して営業利益が過去最高となった。だがコンビニ事業単体で見れば2期連続の減益。改革に必要な先行投資を実施したといった事情はあるが、昨春以降、既存店日販の前年比プラスが続いているファミリーマートや、毎年日販を伸ばし続けるセブンの存在は、今まで以上に大きな脅威と映っているだろう。
玉塚社長の巻き返し策は、新浪前社長とは逆方向で、中央集権的なオペレーションの体制を強化することにある。昨年3月、12年ぶりに支社制を廃止。本部の意向が格差なく全国に伝わる体制を構築したうえで、昨年10月末までに、全店に新しいシステムを導入した。弁当や総菜といった中食などの発注業務を支援する「セミオート発注システム」だ。これを駆使し、個に頼らず、仕組みで底上げを狙う方向に転じた。
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