回転ずし業界で売上高最大手のスシローが再上場を果たした。創業家の“お家騒動”から10年。ファンド傘下で雌伏のときを経て、表舞台で競合とぶつかる。群雄割拠する業界に店舗飽和論も出始めているが、上場をバネにして新たな成長の道を探る。

今年5月29日、東京・JR五反田駅から徒歩3分ほどの場所に、回転ずしチェーン「スシロー」の都心型店舗がオープンする。
「単なる広告塔の店にはしたくない」
ちょうど半年ほど前、回転ずし最大手「スシロー」を展開するスシローグローバルホールディングス(GHD)の水留浩一社長は、社内外にこう語っていた。2016年9月、東京・池袋に出店した際のことだ。
大阪発祥のスシローは1皿100円の割安感を売り物にして郊外のロードサイドを中心に400店以上に成長してきた。そんなスシローが初めて東京のJR山手線沿線の都心に出店したのだ。「広告塔ではない」という言葉には、知名度アップのために不慣れな都心に店を出すのではなく、都心でも着実に店数を増やして新たな収益源にしたいという決意がある。
そうした水留社長の強い意志が表れているのは都心店舗の価格設定だ。池袋の店は1皿120円と、それまで守ってきたスシローの伝統からは、いわば“逸脱”した店。この価格を決めるまでに社内で3カ月は議論したという。「スシローといえば100円なのに、いいのだろうか」という意見も出た。
池袋の店から目と鼻の先に、競合のくらコーポレーションが展開する「くら寿司」がある。こちらは郊外店と同様、1皿100円で提供している。
あえて100円を捨て去る
こうした中で、最終的に水留社長は、120円で展開することを決断した。

スシローのように低コストの郊外で展開してきた企業が、都心に出る際に悩むのは賃料や人件費が高いこと。店が赤字になるリスクが高まるからだ。集客の目玉にしやすい100円という「看板」を捨ててでも、安定して稼げる。新たな都心型のビジネスモデルをつくろうという思いがあるのだ。
池袋の店ができて半年、水留社長は「120円という単価もお客様には支持していただいている」と語る。手ごたえを得て、五反田を皮切りに多店舗展開に乗り出す考えだ。
標準化した店舗を大量に展開することで強みを発揮する外食チェーンにとって、新たな立地や業態で営業するのはハードルの高い挑戦だ。都心に挑むスシローも例外ではない。15年から回転レーンはなく、テーブルですしを提供する「ツマミグイ」や「七海の幸 鮨陽」を都内に数店舗出したが、1年ほどで撤退している。
反省を生かして、新たに池袋から「スシロー」の名を冠する回転ずし店で挑戦することにしたわけだが、価格設定以外にも、多くの新施策がある。
例えばタッチパネルで注文した商品が顧客に届くレーンを、通常の回転レーンとは別に設置した。素早い提供が目的で、店の回転率向上が期待できる。食べた皿を自動的に数えるシステムや無人レジなど、従業員の負荷を減らす仕組みも導入した。五反田の店は都心1号店の仕組みを基本に、さらに都心型店舗の姿を模索する。
だが、市場関係者からは同社の都心ビジネスは、まだ心もとないという声も聞こえてくる。外食業界に詳しい、いちよし経済研究所の鮫島誠一郎主席研究員は「都心で稼ぐためには、アルコール需要をもう少し取り入れるやり方が必要ではないか」と話す。
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