コスト20分の1に圧縮

 試験プラントしかなかった昨年度のCNFの製造コストは1万円程度。製造ラインがフル稼働すれば「1kg当たり1000円に近づく」(河崎所長)。生産ラインの効率化も進め、30年までに500円以下に引き下げることを目指す。

 製紙メーカーとしては王子ホールディングスに次ぐ国内2位の日本製紙だが、パルプの生産量ではシェア約4分の1を占める首位。馬城社長は「30年には(CNFの1兆円市場のうち)パルプと同水準のシェアを日本製紙で獲得する」と意気込む。

 日本製紙がCNFにここまで力を入れるのは、既存事業の苦戦が続く中、従来の事業構造のままでは未来が見えないためだ。

 不採算の海外事業の整理などで、17年3月期の売上高は1兆円の大台を割る見通し。さらに足元でも、円安や中国による石炭生産の抑制などが重なり、原材料費が大幅に上昇。日本製紙を含む製紙各社は相次ぎ値上げを打ち出した。

紙・板紙事業の不振で1兆円の大台を割り込んだ
●日本製紙の売上高と営業利益
<span class="nl_b">紙・板紙事業の不振で1兆円の大台を割り込んだ</span><br /><span class="nl">●日本製紙の売上高と営業利益</span>
注:2016年度は見通し
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 それでも代理店と卸商が絡む複雑な流通構造を持つ製紙業は、値上げの浸透に時間がかかる。加えて、国内証券アナリストは「紙の需要が構造的に減退する中、すんなりと値上げは通らない」と指摘する。

 馬城社長は「17年3月期の業績の下振れは避けられない。18年3月期までの現中期経営計画の目標(売上高1兆1100億円、営業利益500億円)も達成には一歩届かない」と明かす。

 日本製紙は紙製品の中でも新聞紙や印刷用紙といった洋紙事業への依存度が高い。しかし、リーマンショック後の各企業の広告削減や、電子メディアへの移行に伴い、市場は右肩下がりだ。一方、安定成長を見せている段ボール、おむつなどの衛生紙事業では他社の先行を許している。

主力の新聞用紙などは右肩下がり
●紙製品の内需の推移
<span class="nl_b">主力の新聞用紙などは右肩下がり</span><br /><span class="nl">●紙製品の内需の推移</span>
注:2016年は速報値。17年は見通し
出所:日本製紙連合会
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 段ボールは王子ホールディングスやレンゴーが原紙から箱まで一貫して手掛け、販売力も強い。衛生紙では日本製紙もティッシュやトイレットペーパーの「クリネックス」ブランドが浸透しているが、アジア圏での大幅な市場拡大が見込まれるおむつは「グーン」ブランドの大王製紙が強い。

 日本製紙は東日本大震災でグループの6工場が操業停止。特に主力の石巻工場の復旧には1年半を要し、その分、構造改革は立ち遅れた。挽回を期して左上の表のように不振事業の売却と再投資を矢継ぎ早に実行してきた。

 つまり日本製紙にとり、業績浮上に向けた新分野の開拓は待ったなしの状況だ。その動きはCNFだけにとどまらない。1月に公開した新素材「ミネルパ」。パルプに亜鉛などの無機物を混ぜることで、消臭、抗菌、難燃など様々な機能を付与できる。

 無機物の添加は従来パルプの10%程度だったが、ミネルパは90%まで引き上げることを可能にした。その秘密は無機物をパルプに吹き付ける細かい泡。本来は古紙再生の際に紙についたインクを取り除くものだった。

新製品開発推進委員会で発掘された新素材「ミネルパ」。燃えない紙や放射線を遮断する紙を実現する(写真=稲垣 純也)
新製品開発推進委員会で発掘された新素材「ミネルパ」。燃えない紙や放射線を遮断する紙を実現する(写真=稲垣 純也)

 まず想定されているのは壁紙への応用だが、開発者の福岡萌氏は「放射線を遮断する紙も実現できる。社外の意見も取り入れながら様々な可能性を追求したい」と話す。

 新分野では売電事業もある。18年3月に石巻市で400億円を投じた火力発電所を稼働させる予定。既存設備と合わせた18年度の売電事業の経常利益は70億円規模を見込む。3年後には秋田県でも火力発電所を稼働させ、さらに20億円を上積みする計画だ。

 この売電事業でも、新素材が事業拡大を後押しする。それが4月からタイの製紙会社と提携して生産に乗り出す燃料「トレファイドペレット」。木質ペレットを低温で焙煎して「半炭化」する。バイオマス(再生可能な生物由来の資源)燃料の比率を高められるため、固定価格買い取り制度に基づく売電価格を引き上げられるという。

 震災の直前、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに参画して生産方法を確立。しかし、収益化のめどがつかないまま社内で眠っていた技術だった。

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