
3月中旬、トヨタ自動車グループの部品メーカー、ジェイテクトはある試作車を本誌だけに初めて公開した。自動運転時代にクルマの「操作」はどう変わるか──。その一端が見えた。
同社が三重県伊賀市に持つテストコースで、記者は日産自動車の北米向けインフィニティ「G37」を改造した試作車に乗り込んだ。実感したのは、低速での小回りの良さと、高速での安定性の高さだった。
電動パワステで世界首位
これは車速によって、ハンドルを切った幅とタイヤが動く幅を調整しているから。低速ではハンドルを少し切っただけでタイヤが大きく向きを変え、高速では少し切っただけではタイヤが動かないので安定する。
なぜこんなことができるのか。
ジェイテクトは、自動車のステアリングの世界大手。特に、モーターで運転者のハンドル操作を補助するEPS(電動パワーステアリング)では世界シェア約30%で首位に立つ。油圧式から電動への切り替えが進み、同社の売上高もこの数年、右肩上がりが続く。
合併当時1兆円程度だった売上高は1兆3999億円(2016年3月期)まで伸び、4~5%台が続いていたROE(自己資本利益率)も10%を超えた。ただし、自動運転など新技術によって産業構造が変わるなか、業界ナンバーワンのジェイテクトも安泰ではいられない。
そのジェイテクトが、「自動運転時代に必須になる」(ステアリングシステム開発部の山川知也部長)と考える技術が、「SBW(ステア・バイ・ワイヤ)」だ。
従来のステアリングは、ハンドルとタイヤをシャフトやギアでつなげ、ハンドル操作を直接伝えていた。SBWはハンドル操作を電気信号に変えタイヤを電子制御するので、ハンドルとタイヤを物理的につなぐ必要がなくなる。
記者が乗った試作車は、既に日系自動車メーカーの新型車への採用が決まったSBWを搭載。シャフトも設けており、電子制御が機能しなくなった場合には物理的に操舵できる。
物理的につながっていると、ハンドルの切り幅によるタイヤの動きは決まってしまう。電子制御だからこそ、低速と高速でタイヤが動く量をコントロールすることができるのだ。
クラッチ式のSBWは日産が自社開発し、14年に発売した「スカイライン」に搭載している。ジェイテクト製SBWはタイヤの動きをより細かく制御できるほか、万が一、片方のモーターが故障した場合にもう一方のモーターが代替する機能も持つ。さらに同社は、完全にシャフトがないSBWの開発にも既に取り組み始めている。
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