三陽商会が「虎の子」バーバリーとの契約終了後、赤字に苦しむ。ただ“バーバリー喪失”は名門企業が失速した表面的な理由にすぎない。危機を直視せず成功体験にすがる体質によって、戦略が後手に回り続ける。
「バーバリーの後に、三陽さんが用意したブランドの実力には懐疑的だったので、マッキントッシュは入れなかった」。ある百貨店の商品担当者は、主要店舗の売り場構成を考える中で、こう決断したという。実際にマッキントッシュに切り替えた百貨店のある売り場からは「バーバリーの7割程度は売れると思っていたが、想定には届かない」といった声も漏れてくる。
三陽商会と英バーバリーのライセンス契約が切れたのは2015年6月。それ以降、業績悪化に歯止めがかからない。16年12月期決算は売上高が676億円で前の期比約3割減。最終損益は113億円と最終赤字に転落した。15年夏の時点であった、バーバリーの約350の売り場のうち、約260を「マッキントッシュ ロンドン」に切り替えたが想定の売り上げを確保できていない。
大手アパレル4社のうちオンワードホールディングス、ワールド、TSIホールディングスは、15年に社長を交代。いずれも業界外部の出身者で、改革を急いできた。各社ともに売り上げ減少に歯止めはかかっていないものの、16年度の第3四半期までの9カ月累計で営業増益は確保している。
それに比べて、大手4社の一角を占める三陽商会の不振は際立つ。当然、売り上げの半分を占めていたという「ミラクルブランドのバーバリー」(三陽商会の齊藤晋取締役兼専務執行役員事業本部長)がなくなった影響は大きい。
だが同社のたどった歴史などから分析すると、単にバーバリーとの契約終了がもたらす業績悪化と片付けられない、会社をむしばんだ本質的な課題が見えてくる。

裏目に出た「三陽基準」
吉原信之氏が1943年に創業した三陽商会は、戦後進駐軍からレインコート1万着の発注を受けたことで、アパレル企業としての大きな一歩を踏み出した。進駐軍のレインコートの発注を取り持ったのは、第一通商、現在の三井物産の繊維部門だ。
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