不振続きのアパレル業界にあって、非上場ながらSPA(製造小売り)を軸に急成長を遂げた。「第2のユニクロ」と目されてきたが、目指すビジネスモデルはそこから大きく離れつつある。独り善がりな“こだわり”を捨て、ビジネスモデルの自己破壊を続けるその経営姿勢は様々な示唆に富む。
(日経ビジネス2018年4月9日号より転載)

「米アマゾン・ドット・コムが日本のアパレルEC(インターネット通販)市場で1位になるのを一緒に防ぎましょう」。昨冬、ストライプインターナショナルの石川康晴社長兼CEO(最高経営責任者)はある経営者との会食の席で熱っぽく語りかけた。その相手とはアパレルECの先駆けとして知られる「ゾゾタウン」の創業者・前澤友作氏。ストライプ傘下の主力ブランドは軒並みゾゾタウンに出店しているため、今年2月にECサイト「ストライプデパートメント(SD)」を立ち上げる前に“仁義を切る”のが会食の目的だったという。
ゾゾタウンとアマゾンが圧倒的な2強として君臨するアパレルEC市場にこれから飛び込む──。そもそも自社ブランドを抱えるアパレル企業が他社の参加を前提としたECを立ち上げること自体が極めて珍しい。業界の常識を物差しにして考えれば無謀でしかないが、石川氏は複数の理由から勝算を持っていると説明する。
その勝算を構成する要素の一つが地方百貨店の閉店だ。各地のF2層(35~49歳の女性)がオシャレな服を買える場所は急速に縮小している。一方、ファッションビルやSC(ショッピングセンター)で勢いのあるブランドは、「デザインが若すぎる」などの理由から敬遠されがち。都心なら大手百貨店や各ブランドの旗艦店などもあるが、地方ではそうはいかない。
SDが主要顧客として狙うのはこのF2層。これがそのまま勝算の一つになる。ゾゾタウンはF1層(20~34歳の女性)に強いため、地方百貨店の縮小によってあぶれたF2層に絞り込めば直接的な競合関係になりにくいからだ。
ストライプがアパレル企業側の事情を把握していることも勝算につながる。例えばアマゾンでは似たような商品を簡単に比較できるため、商品価格の下落を招きやすいという指摘がある。それゆえブランドイメージの低下を懸念して出店をためらうアパレル企業も少なくない。そこで「雑誌のような記事スタイルで情報発信するなどブランドの価値を高める取り組みに力を入れ、決して安売りにはしないと説得して回った」(SDの佐藤満専務)。
SDに参加した企業名を見ていくと、本来はストライプと競合関係にある三陽商会やレナウンなどの大手アパレル企業が目立つ。百貨店最大手、三越伊勢丹が手掛けるPB(プライベートブランド)までもが出店を決めている。
SDの大きな特徴の一つが、ストライプ傘下の自社ブランドを一つも扱っていないことだ。EC対応は多くのアパレル企業にとって不可欠ながら、専門の技術者を集めて自社で高度なECサイトを構築できているケースは少数。だが、他社の用意するECプラットフォームに依存することへの警戒感は根強い。そんな状況を踏まえ、自社ブランドを優先せずにプラットフォームに徹する姿勢を打ち出すことで、参加企業の信頼をつかむことに成功した。
こうした消費者を取り巻く変化とアパレル企業の事情を冷静に分析していけば、過酷な「レッドオーシャン(競争が激しくもうかりにくい市場)」に見えるアパレルECに参入しても勝ち目があると踏んだのだ。
「全部、逆さまにしてしまえ」
●ストライプインターナショナルの売上高

注:単体ベース、2014年度から連結
ストライプインターナショナル(旧社名はクロスカンパニー)の創業は1994年。石川氏が地元・岡山で女性向けのセレクトショップを開業したのが始まりだ。当時は輸入ブランドによる高級路線だったがうまくいかず、起死回生の策として東京に進出してますます行き詰まった。
信頼していた社員が次々と辞めていくピンチに際して「崖っぷちなんだから、もう全部、逆さまにしてしまえ」(石川氏)と、低価格帯のSPA(製造小売り)に大きく路線転換した。そうして99年に立ち上げた「アース ミュージック&エコロジー(アース)」が大ヒットし、現在は複数のSPAブランドを展開している。
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