
ただし、柿本氏には、ベンチャーを立ち上げる経験と資金力がない。そこで、「数年間、徹底的に自分を鍛える」と決めて志望企業を変更。若手にも積極的に仕事を任せることで知られる業務ソフト大手、ワークスアプリケーションズ(東京都港区)に2010年に入社した。起業したのは、その3年後だ。
最初のカフェは柿本氏の母校、同志社大学前に開いた。学生時代にアルバイトしたピザ店の先輩である末政博行取締役と話していた時に、「思い立って不動産会社に行ったら絶好の場所に空きテナントがあった」(末政氏)からだ。

だが、肝心のスポンサー集めは苦戦の連続だった。電話営業はほぼ門前払い。上京して車中泊を続け、3カ月で何とか目標の25社をかき集めた。
オープン初日の来店客は、たった2人。店内の改装まで自ら手掛けるドタバタの中、宣伝に手が回らなかった。このままではイベントを予定するスポンサーの顔も丸つぶれ。真っ青になって呼び込みを続け、事なきを得た。
ビジネスモデルの筋は良くとも、カフェ運営は素人だった。エンリッションの幸運は、そこに、カフェで働く学生アルバイトをやる気にさせる「仕組み」を持ち込んだ人物がいたことだ。常務取締役COO(最高執行責任者)の田口弦矢氏。ネット大手・サイバーエージェントで採用責任者を務めた経験を持っていた。
取締役4人+学生バイト170人
エンリッションの組織は極めてシンプルだ。取締役は柿本氏、田口氏、末政氏、ワークスアプリケーションズの同期の眞保榮祐介氏の4人。残る170人はすべて学生のアルバイトである。
店舗運営は店長からスタッフまで、すべて学生。店長は学年に関係なく適性で選出し、任期は半年。来店人数や顧客満足度などで評価し、アルバイトながら執行役員となった学生もいる。
「学生は数年で抜けていくのが大前提。一人ひとりがワクワクしながら仕事ができる、長期インターンシップのような仕組みを作った」(田口氏)。これが2015年の1年間で、一気に7店舗出店という急拡大を支えた。
そして、今年4月15日にオープンする12店舗目は、意外な場所にある。世界のIT人材供給地であるインドの理系最高学府、インド工科大学(IIT)。そのハイデラバード校のキャンパス内だ。しかも、カフェでサービスを提供するのは日本から送り込む学生だ。
●エンリッションの売上高推移

IITハイデラバード校のウダイ・デザイ学長は「非常にユニークで斬新なビジネスモデル。日本のサービスを体験することはインドの学生にとっても魅力的」と語る。インド進出を成し遂げたのは、執行役員の森脇夕里江氏(神戸大学)など4人の学生だった。
同店の第1号スポンサーとなったのは、ワークスアプリケーションズだ。同社の牧野正幸CEOは、「IIT卒の優秀な人材を採用する」と狙いを話す一方で、「IITハイデラバード店のスポンサー料は数千万円。正直、(柿本氏が)うちの卒業生でなかったらちょっと迷う。応援したいという心意気が大きかった」と笑う。
「IITの他キャンパスや東南アジア、米国などに知るカフェを展開していく」と柿本氏は意気込む。カフェというツールを使って、硬直化した就活市場に新風を吹き込んだエンリッション。そのビジネスモデルは、世界的にも普遍性がありそうだ。
(日経ビジネス2016年4月4日号より転載)
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