研究開発が事業にコミット 一蓮托生の風土を醸成

 「どうやればシェアが上がるのか」「売るためなら何でもやる」──。

 最近、事業部のブランドマネジャーに、研究所の研究員からそんな声が頻繁に届くようになった。POS(販売時点情報管理)データを自ら見て、一喜一憂する研究員も少なくない。5年ほど前まで、ありえなかった光景だ。

 これまで、商品開発を担う研究所は、事業部や営業部を完全に信頼していなかった。苦労して開発した商品を安易に安売りしているという疑念や、短期的なシェア拡大のために期間限定の香りやパッケージなどの開発を要求され、中長期の視点で開発に取り組めないといった不満が、複雑に絡み合っていた。

事業部の横手ブランドマネジャーと研究所の歯ブラシ開発チーム(写真=稲垣 純也)

 だが、研究開発に長く携わってきた濱氏が社長に就任して以降、「事業部と研究所のわだかまりが、だいぶ減った」(研究開発本部長の岡野知道執行役員)。濱社長が、中長期視点の開発にもリソースを注ぐようにと指示を出し、研究所も事業部に対して、中長期の開発計画を具体的に示すようになったからだ。

 「高付加価値の商品をヒットさせられていなかったのは、我々にも責任があった」と岡野執行役員は言う。事業部側が、開発中の新商品を具体的にイメージできないから、本当に売れるのか信じることができなかったのである。

 そこで最近は、早いものでは発売の数年前から、開発中の試作品を事業部と共有するようになった。その成功例が、昨年9月発売のボディーソープ「hadakara(ハダカラ)」である。

 ハダカラは、ライオンにとって「植物物語」「バストロジー」に次ぐ、8年ぶりのボディーソープの新ブランドだ。ボディーソープ市場には、花王の「ビオレ」、ユニリーバ・ジャパンの「ダヴ」という2強が君臨し、長らく変化していなかった。そこに、「3つ目のブランド」として認知されることを目指した。

 開発を始めたのは13年。消費者調査をすると、ボディーソープで最も不満に思っているのが保湿の性能だった。そこで、「保湿成分を洗い流さない」という技術を開発。とにかく試作品を作り、事業部と共有することにした。

 最初に出来上がった試作品は、液体の粘度が高すぎてポンプを押しても出てこないありさまだった。従来ならば事業部に見せるような段階ではなかったが、それが功を奏した。商品化からは程遠い水準だったものの、使ってみると仕上がり感が従来商品と比べて明らかに優れており、事業部から開発の推進に大きな賛同を得られたのだ。

 ヘルス&ホームケア事業本部ビューティケア事業部の柴山英樹ブランドマネジャーは、「試作品を初期の段階から共有したことで、関連部署が一丸となって商品を洗練させることができた」と話す。汎用価格帯で勝負する方針などが早期に固まり、コスト削減などやるべきことが明確になった。そして、発売後の3カ月間で計画の約1.3倍を売り上げるヒットにつながった。



 これまで見てきたように、長期低迷してきたライオンが再び成長し始めた背景には、外科的な手術は何もない。もちろん、「藤重相談役の社長時代に、解熱鎮痛薬『バファリン』の商標権(中国を除くアジア・オセアニア地域)の取得や食品子会社の事業譲渡など、構造改革に取り組んだ成果もある」(国内証券アナリスト)。だが、改革の本丸は、あくまでも社員の意識改革により、組織が持つ本来の力を呼び覚ましたこと。その手法は、多くの企業が今すぐにでも実践できそうだ。

(日経ビジネス2017年3月20日号より転載)