自然言語処理に特化したAIベンチャー。音声の書き起こしや、文章の要約の自動化で業務効率化に取り組む。マーケティングや電子書籍のPRなど、多様な分野で大手企業に利用されている。
(日経ビジネス2018年4月9日号より転載)
「お知らせかいてればリンダ」「あー丹沢側年だが」──。これは東北電力のコールセンターにかかってきた津軽弁の問い合わせの内容を、AI(人工知能)が書き起こしたもの。残念ながら意味不明だ。
この音声認識AIはiPhoneのAI「Siri」に技術提供した米ニュアンス・コミュニケーションズのもの。なまりがきつく独特の言い回しも多い津軽弁は、聞き取りが難しい方言の代表例。さしもの最新AIも認識精度が落ちる。
しかし、20~70代の津軽地方の住民の発声を解析し、AIに組み込むと、冒頭の文章は「お知らせ書いてる番号でいいんだが」「あー単価は変わんねんだが」に変わった。AIの認識精度は約76%から約94%に向上。東北電力はこの成果を、コールセンターの待ち時間の短縮などにつなげる考えだ。
弘前大学と共にこの改良作業に取り組んだのがエーアイスクエア(東京・千代田)。自然言語処理AIの開発を手掛け、文書作成やコールセンター業務の効率化を担う。
言語処理の研究者そろえる

同社には言語処理に特化したAI研究者が約10人所属。さらに社内にコールセンターを抱え、顧客の業務の一部を受託しているため、AIの深層学習に役立つデータの取得から、実証実験まで社内でこなすことができる。こうした体制が評価され、設立3年目の若い企業ながら、日本たばこ産業や三井不動産リアルティなどの業務効率化に関する事業を受注している。

既に効果が出ている事例もある。徳島県は、飯泉嘉門知事の定例記者会見での発言記録をホームページに載せる業務で、エーアイスクエアのシステムを採用。音声認識AIを使って記録の書き起こしを自動化した。同社のシステムは音声データを文章ごとに自動で区切って一部分だけ繰り返し聞けるので、AIが間違えた場合も人が修正しやすい。書き起こし作業にかかる時間は約10時間から半分に短縮できた。
しかしエーアイスクエアの技術の真骨頂は、書き起こしの後の工程にある。同社のAIは、書き起こした文章を自動で要約したり、キーワードを抽出したりできる。かかる時間は、15分程度の会見録なら1秒以下から数秒。分厚い書籍でも3分程度だ。
徳島県はこの機能を使い、ホームページの閲覧者が自由に要約の割合を設定し、会見録を短縮して読めるサービスを始めた。会見録へのアクセス数は平均で2倍に跳ね上がった。
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