大きく7つの工程に分かれているミソカの生産は、それぞれの専門技術を持つ職人が担当し、全て国内工場での手作り。ブラシの素材や形状、歯ブラシを持つための柄の部分の成型やデザイン、包装する箱までこだわる。生産数が増えていったとしても、手作り感を大事にしていきたいという。

 サラリーマン時代から発明好きだった辻社長。クルマが趣味で、自分で洗浄するなか、何度もワックスを塗るのは環境に悪いという問題意識が芽生えた。発明魂に火がつき研究を始め、汚れにくい親水性を作りだすミネラル成分の調合方法を発見。まずはクルマの汚れ防止用に商品化を考えた。だが、クルマ用品業界への参入は難しく、より大きな市場はないかと考え抜いた。

 そこで着目したのは、一人ひとりが使う歯ブラシへの応用。歯ブラシにミネラル成分を調合した溶液を塗布することに成功した。圧力をかけ噴霧して付着させるなどの塗布技術の工夫で、30日間程度の親水性の効果が持続できるところまで改良を重ね、商品化に踏み切った。ツルツル効果が約30日持続するため、暦で使う漢字「三十日(みそか)」から商品名を考案した。

累計出荷数300万本を突破へ

 夢職人の高級歯ブラシの累計出荷数は2016年春ごろに300万本を突破する見込み。業績も順調に拡大している。だが、創業当初は苦労の連続だった。

 「1本1000円の歯ブラシ? そんなもん、誰が買うねん」。創業間もなく、東急ハンズの心斎橋店(大阪市)で辻社長が実演販売を始めたころのこと。集まった客に辛辣な言葉を浴びせられることも少なくなかった。「これはすごい歯ブラシだ」という自信はあったものの、1本100~200円程度で買える歯ブラシが多いなか、1本1000円という値付けはいくら高機能とはいえ理解してもらえない日々が続いた。

 毎日のように朝から晩まで地道に実演販売を続けた結果、徐々に購入する客が現れ始めた。最初は試しに1本だけ買って帰る客がほとんど。

 「歯がツルツルする効果が嘘やったら、どつくぞ」。購入してくれても、そんな捨てぜりふを吐いていく客もいた。すると1週間後にまたその客が来店。「何を言われるのか」とドキドキしていた辻社長だったが、その客は「これ、ええな」と今度は家族全員用に数本まとめ買いをしていった。

 そんなリピーターが続出し始め、心斎橋店以外の東急ハンズでも取り扱いが始まるなど、口コミやメディア露出を通じて徐々に販路が広がっていった。

歯ブラシの出荷が伸び売上高拡大
●夢職人の業績推移
歯ブラシの出荷が伸び売上高拡大<br /> ●夢職人の業績推移

 現在、イズムだけではなく、子供用やトラベル用など用途別にもラインアップを増やしており、月販10万本を目標にしている。今後の課題は海外での販売強化だ。まずは海外と日本向けの売り上げを同じくらいにすることを目指す。将来は、海外の売上高が国内より大きくなっていくと考えている。それほど、海外での手ごたえを感じているからだ。

 「これは歯ブラシ業界のエルメス、歯ブラシ業界のロールス・ロイスになれる製品。世界中の富裕層を顧客にすることを目指すべきだ」。2014年に台湾市場へ進出した際、ミソカのとりこになったある台湾財界の大物に、こう激励されたという。

 「そんなことできるかなと当時は半信半疑だったが、最近は自信がでてきて、“歯ブラシのエルメス”を目指したいと本気で思っている」(辻社長)。常識破りの革新的な商品で世界を狙う発明家の夢は広がる。

(日経ビジネス2016年3月14日号より転載)