怪しいメールをAIが順位付け
このAIを国際訴訟支援やフォレンジックで使うと、どのような威力を発揮するのか。証拠となる可能性が高いデータの特徴を少数のサンプルで学ばせることで、怪しい内容のメールやファイルを高速に特定できるようになる。「20人の弁護士が2週間かけても見つけられなかった証拠を、AIが1日で見つけたこともある」(守本社長)。
通常の国際訴訟支援サービスでは、膨大な電子データの中から証拠と合致しそうなキーワードで検索をかける。この検索結果を人が1件ずつ見て、証拠となる情報であるかどうかを判断する必要がある。UBICのAIを使えば、疑わしい順にスコアが付くため、最終的な人の確認作業を最小化できる。
例えば、カルテルや談合に関する調査では、メールに登場する「飲み会」というキーワードが重要視される。複数人で集まって相談する場として使われるからだ。ただ、単に「飲み会」で検索すると、膨大な数のメールがヒットしてしまう。普通の飲み会に関するメールも拾い上げてしまうからだ。
UBICのAIは前後の文脈なども含めて分析し、“怪しさ”の順位を付ける。人はその順に見ていけばいい。「競合の米国企業に頼む場合に比べて、訴訟の証拠探しのコストを3分の1程度にできる」と守本社長は断言する。
2014年からは、これまで培ってきたAI技術をマーケティングやビジネスインテリジェンス、ヘルスケア分野といった新規事業に活用し始めた。
「はじめまして! 僕はKibiro(キビロ)。あなたのこと、もっと知りたいな」
目を光らせ、愛らしいしぐさをしながら動く高さ30cm程度の小型ロボットだ(上の写真1)。ロボットなのに服を着せるというアイデアが評判となり、2015年11月の製品発表と同時に注目を集めた。これが、マーケティング分野の主力となるロボットだ。ロボットベンチャーのヴイストン(大阪市)と組んで開発した。
キビロはユーザーと話をしながら、好みや嗜好をクラウド上のAIで学習していく。ユーザーが、「友達と行くレストランを探している」と話しかけると、求めている店の雰囲気や用途などを聞いた上で、最適な店をネット上から検索して教えてくれる。
通常の検索と似ているが、機械的な検索結果が一覧表示されるだけでない点が決定的に異なる。キビロとの会話を通じた検索であれば、ユーザーの嗜好まで考慮して結果を知らせる。「より早く、欲しい情報にたどり着け、自分が予想もしていなかった情報までリコメンドしてくれる」。UBICがマーケティング事業のため設立した子会社、ラッパの斎藤匠社長は、こう説明する。
キビロの価格は10万円以下になる予定で、2016年前半から法人向けに発売する。案内所や店舗に置き、来客へ情報提供する用途を想定。今年12月には、個人向けにも販売する計画だ。
トヨタグループとも協業
顧客企業の業務効率化に寄与するビジネスインテリジェンス分野では、特許情報の分析システム「パテントエクスプローラー」を提供している。共同開発したのは、トヨタ自動車の100%子会社で、特許管理などを手掛けるトヨタテクニカルディベロップメント(愛知県豊田市、以下TTDC)だ。
両社が協業した背景には、トヨタグループにおける特許関連作業が増大していたことがある。自動車の電動化や自動運転などが進展してきたことで、従来のクルマ関連だけでなく、電機やIT分野まで幅広く特許情報をチェックしなければならなくなった。グループで開発している様々な技術で、既存特許を侵害していないかどうかなどを1件ずつ確認するのは限界が出てきた。
TTDCの宮川倫一・情報解析室室長は、「技術的に似ている関連特許を探し出す作業では、AIがずばり合致する資料を高速に探し出したことに衝撃を受けた」と語る。両社は今後も共同開発を続け、パテントエクスプローラーを外販していく。
ヘルスケア事業でも大手と組む。2015年からNTT東日本関東病院と共同で、電子カルテなどの情報をAIで分析し、患者の転倒リスクを予知するシステム開発を始めた。
主力事業のリーガル分野では北米で体制が整い、AIを横展開する新規事業も国内で実績が出始めた。ただ、このまま安定成長できるかどうかは予断を許さない。課題は利益水準の変動が大きいこと。北米における訴訟件数の多寡が利益の増減に直結しているからだ。
だが、この問題は徐々に解消する見通しだ。北米で同業を買収したことで、大規模案件の受注増が見込めるからだ。「年により利益変動が大きい課題は、リーガル分野での顧客数拡大と案件の大規模化で乗り切っていく」(守本社長)。
リーガル事業で稼いだ利益を、新規事業へ大胆に投資していく好サイクルを作れるか。これが今後の成長を大きく左右することになる。
(日経ビジネス2016年3月7日号より転載)
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