スイス勢に圧倒されてきた時計事業で、反撃ののろしを上げている。 主力の「グランドセイコー」の売り方を刷新、100万円以上の高級品市場にも本格参入する。 日本での成功モデルを引っ提げ、高級腕時計市場の牙城、欧州にも攻めこむ。

<b>100万円を超える高級腕時計市場に本格参入する。2016年2月にはクレドール(時計上、100万円)やグランドセイコー(時計下、180万円)を投入した</b>(写真=北山 宏一)
100万円を超える高級腕時計市場に本格参入する。2016年2月にはクレドール(時計上、100万円)やグランドセイコー(時計下、180万円)を投入した(写真=北山 宏一)

 2月初め、国内時計メーカーが東京都内で開催した関係者向け展示会の会場で、驚きの声が上がった。

 セイコーホールディングス(HD)傘下で時計事業を手がけるセイコーウオッチのブースに、超高額な新製品が並んでいたためだ。どれも100万円以上で、中には5000万円の時計もあった。いずれも、同社の旗艦ブランド「グランドセイコー」の中心価格帯20万~50万円を大きく上回る。

 国内の時計市場には「100万円の壁」が存在する。100万円以上の市場はスイスなどの欧州ブランドが支配し、日本勢の付け入る隙がなかった。セイコーはその壁を破り、従来の「高品質で実用的」というイメージから抜け出そうと、高級品市場に本格参入する。

 セイコーウオッチ社長も兼ねる服部真二セイコーHD会長は、「国内外で高いシェアを握るスイス勢の一角を崩す準備がようやく整った」と言う。「ロレックス」や「オメガ」などのスイスブランドは日本市場で約7割のシェアを持つと言われる。それらを追撃しようというわけだ。

 「打倒スイス」に動き出したのは、時計事業の競争力が着実に回復してきたという自信の表れでもある。

出所:日本時計協会
出所:日本時計協会
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 2016年3月期の時計事業は、売上高が前年同期比7%増の1700億円、営業利益が同10%増の135億円となる見込み。訪日客による需要増もあるが、グランドセイコーやGPS(全地球測位システム)で世界のどこでも時刻を調整できるソーラー時計「アストロン」の売り上げが好調に推移している。過去5年で売上高は2.5倍となり、国内市場の成長率2倍を上回った。

半分以上を時計事業が占める
●セイコーホールディングスの売り上げ構成比
半分以上を時計事業が占める<br />●セイコーホールディングスの売り上げ構成比
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 セイコーHDは電子デバイスやシステムソリューションなどの事業も持つ。その中で売上高の半分強を占める時計事業の好調により、2016年3月期は売上高3050億円、営業利益140億円と増収増益を見込む。

 数年前までセイコーHDは長期低迷が続いていた。2010年3月期に2年連続で最終赤字となり、同年4月には取締役会での“クーデター”で当時の社長を解任。創業家、服部一族の「お家騒動」が事業にも影を落としていた。

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