藤田氏は、「現時点では、ネットフリックスなどは競合というより、動画をネットで見る習慣を広げる同志だ」と語る。ただ、ネット時代は強いプラットフォームになれた存在が、収益面でも他を圧倒するのが常。海外の巨大な有力プレーヤーに伍して競争力を発揮できなければ、藤田氏の描く戦略も実現するのは難しい。

収益源多様化に向け買収も

 もちろん、藤田氏もこうした課題を認識しており、他の動画配信サービスとは異なるAbemaTV独自の特徴を打ち出そうとしている。

 その一つが、将来の消費を担う若年層の取り込みだ。現在、AbemaTVの視聴者は18〜34歳が中心で、多くのコンテンツがこの層に向けて制作されている。若年層の強固なユーザー基盤を確立することで、既存の広告事業とのシナジー効果を狙う。ユーザーの視聴行動データを細かく分析し、PDCA(計画・実行・評価・改善)を回してサービス改善につなげていく。

 AbemaTVを核とした新規事業など、収益源の多様化に向けた試行錯誤も始まっている。昨年12月には通販子会社を新たに設立し、今年2月からテレビショッピングをAbemaTVで始めた。同月には初めて、総額400億円の転換社債を発行。調達した資金は、「主にAbemaTVと連動して収益を上げるための買収に充てる」(藤田氏)という。

 AbemaTVは紛れもなく、サイバーエージェントの命運を握っている。それだけに、藤田氏にとっては負けられない戦いだ。確かに現時点では先行きに不透明感があるのは否めない。それでも、10年後を見据えるなら、ネットで視聴する動画というフロンティアを前に手をこまぬいてはいられない。

 藤田氏は、ブログやスマホと同様にAbemaTVで環境変化の波をうまくとらえられるのか。3度目の挑戦の難易度は、これまで以上に高い。

(河野 祥平)

INTERVIEW
サイバーエージェント 藤田晋社長に聞く
AbemaTVを10年がかりでやり抜く
(写真=的野 弘路)

 我々は「21世紀を代表する会社を創る」という目標を掲げ、創業以来、規模を大きくできるもの、社会的な影響力を持てるものを戦略的に選んできました。AbemaTVもその一つです。

 事業の構想を練り始めたのは2014〜15年ごろ。ネットフリックスなど米国発の動画配信サービスが急速に利用者を獲得し、日本にも上陸するタイミングでした。スマートフォンやインターネットに接続できるテレビなど新たなデバイスが登場して、動画をネットで見るライフスタイルが定着しつつあります。我々がやろうがやるまいが、世の中の動画はネットにシフトしていきます。参入するならこのタイミングしかなかった。

 会社の状況も、決断を後押ししました。新規事業を育てるときに忘れてはならないのは、既存事業が苦しくなってから投資をしたのでは、結局はジリ貧になってしまう場合が多いということです。我々がこの「マイナスの連鎖」に陥らないためにも、(広告やゲームといった既存事業が)少しでも余裕があるうちに、次のビジネスを仕込む必要があると考えています。

 大きな赤字を出していることは重々認識していますが、メディア事業は先に面白いコンテンツを作らなければ成功しないし、マネタイズできないことは歴史が証明しています。だから、現状はあくまで先行投資と位置付け、とにかくいいコンテンツを継続して作り続けることが大事だと考えています。いいコンテンツさえあれば、我々の得意なネットマーケティングを駆使して利用者を広げる自信はあります。

 マスメディアとして認知されるための当面の基準は、週間のアクティブユーザー(一定期間内に1回以上利用するユーザー)が1000万人を超えることだと思います。あくまで感覚的なものですが、この規模になれば広告単価は上がり、有力な広告主を呼び込むというポジティブなサイクルに入っていくと考えています。

 我々はAbemaTVを10年がかりで会社の柱に育てていく考えです。広告やゲームといった既存事業との相乗効果はもちろん、AbemaTVを起点にした新規事業も出てくるでしょう。AbemaTVを会社の中心に据えて、中長期で全社が潤うような展開をしていくつもりです。(談)