例えば、今年1月から放送が始まった、初のオリジナルドラマ「声だけ天使」。新進気鋭の演出家らを起用し、総制作費は民放ドラマ並みとされる3億円以上を投入した番組である。

 監督への交渉は、藤田氏が自ら手掛け、撮影開始時には現場に入り、「これは単なるネットドラマじゃない」と制作スタッフらを前に檄を飛ばした。藤田社長は映像の素人。だが、「巨費を注ぎ込んでいるのに、口を出さないのは無責任」(藤田氏)と、現場に降りて自らの熱意を伝えた。谷口氏は「どうしてもAbemaTVで見たいと思わせるコンテンツを、開拓者精神を持って作り続けることが重要」と強調する。

 こうしたオリジナルコンテンツの制作に投じる資金は大きく増えている。4月から放送を予定するリアリティーショー「リアルカイジGP」は、優勝賞金が1億円という破格の設定。17年9月期はAbemaTV事業の総投資額(200億円規模)の33%だったオリジナルコンテンツの制作費を、18年9月期は41%に引き上げる計画を掲げている。

人気の恋愛リアリティーショー
「真冬のオオカミくん には騙されない」
経営トップ自らAbemaTV事業に奔走する
●藤田社長の関わり方ポイント
1投資期間と位置付け、赤字を覚悟で大型投資 3コンテンツ制作は企画から社長が完全に主導
藤田氏
2他部門のエース人材を事業の要に起用 4大物のキャスティングにも関わり、現場を鼓舞
(写真=2点:的野 弘路)

 さらに、コンテンツ作りには社内から優秀な人材を惜しみなく投じている。人気番組の一つ、恋愛リアリティーショーの「真冬のオオカミくんには騙されない」のプロデューサーである横山祐果氏は、ゲーム事業で多くのヒット作を手掛け、29歳で執行役員に抜擢されたエース人材だ。16年にAbemaTVの制作部門に異動し、看板番組を任されている。制作部門以外の営業やマーケティングなどにも、ゲーム事業や広告事業から人材を投入している。

既存事業が巨額赤字を支える

 藤田氏自身がトップダウンで新規事業の細部にまで関与する手法は、過去に成果を上げている。サイバーエージェントが社運をかけたプロジェクトは、AbemaTV以前に2つあった。広告事業が軌道に乗り始めたタイミングで仕掛けた04年のブログ事業参入。そして10年代に業界に先駆けて全社的に推進したサービスのスマホ対応。

 必ずしも順風満帆だったわけではない。特に、ブログに関しては数年間は十分な成果を上げられず、投資家らの厳しい視線にさらされた。株主総会で藤田氏が「進退をかける」と発言するほど追い込まれる局面もあった。

 ここで藤田氏は、事業を任せていた担当幹部らに代わり、自分が全面的に取り仕切る形に体制を変更。「無責任に人任せにしたことが原因」(藤田氏)との反省をもとに、有名人のブログ開設などで集客力と認知度を高め、消費者向けサービスの多角化に道を開いた。

広告とゲームがAbemaTVの 多額の赤字を吸収している
●サイバーエージェントの2017年9月期の業績内訳
注:「その他」はセグメント間の内部売上高など調整額含む

 この成功体験はスマホ対応にも生きた。スマホの普及を見据え、パソコン向けウェブサイト中心の収益構造からの脱却を決断。広告事業ではスマホ向けのサービスや人材を大幅に拡充、10年にはスマホ向けゲーム事業を本格的に開始した。これらのスマホ対応の技術開発も藤田氏自身が主導。今や広告事業の売上高の8割はスマホ関連が占め、ゲーム事業はスマホゲーム業界で13%程度のシェアを握っている。

 今回のAbemaTVは、この延長線上にある。藤田氏がトップダウンで社内のリソースをAbemaTVに大きく割けるのは、こうして育った既存事業が巨額の赤字を吸収しているからだ。17年9月期では、広告・ゲームの2事業の売上高が計3484億円で全体の9割超。営業利益は同452億円に上る。

 一方、藤田氏は「自社の広告事業やゲーム事業のニュースは(社内からの報告ではなく)新聞で初めて知ることも多い」と言うほど、AbemaTVに没頭する。既存事業の経営について藤田氏はほとんど関与していないともとれるが、なぜこうしたことが可能なのか。