創業20周年を迎えたサイバーエージェントが、藤田晋社長の号令で「第3の柱」の育成に挑んでいる。成功体験を信じ、インターネットテレビ局「Abema(アベマ)TV」に巨費を投じてトップ自ら現場に入る。ただ、赤字覚悟の取り組みは「賭け」にも映る。10年先を見据えているという新規事業の勝算を検証する。
(日経ビジネス2018年3月19日号より転載)

2016年4月に開局したインターネットテレビ局「Abema(アベマ)TV」が、急速に視聴者を増やしている。バラエティー、ドラマ、スポーツなどの豊富なコンテンツと、スマートフォン(スマホ)やタブレットを使って無料で視聴できる点を若者が支持。アプリのダウンロード数は2600万、月間の視聴者数は1000万人を超えた。
「マスメディアを目指す」──。そう宣言してAbemaTVを運営するのが、インターネット大手のサイバーエージェント。広告事業、ゲーム事業に次ぐ、第3の柱に育てる方針だ。
だが、AbemaTVを中心とするメディア事業の売上高は会社全体の7%にあたる約256億円(17年9月期)。一方、営業損益は185億円もの赤字で、既存の主力事業が稼ぐ利益の3分の1以上がAbemaTV事業で失われている計算だ。その傾注ぶりは、外部からは先行きが不透明な「賭け」のようにも映る。
株式市場やテレビ業界の一部の関係者からは、「本当に大丈夫なのか」と同社の戦略を疑問視する声が上がる。それでも、同社の創業者社長である藤田晋氏は、「AbemaTVを10年がかりでやり抜く」と公言し、積極投資を続ける姿勢を崩さない。なぜ今、藤田氏はそこまでして新規事業に入れ込むのか。
1998年の創業から20年、同社は浮き沈みの激しいネット業界で着実に成長を続けてきた。ネット広告の代理店から出発し、ブログやゲームに事業領域を拡大。2017年9月期の売上高は3713億円、営業利益は307億円と業界を代表する存在に成長した。
「会社の寿命は30年」──。かつて日経ビジネスは、企業が繁栄を謳歌できる期間をそう定義した。サイバーエージェントに当てはめれば、残り10年。現在同社を支える広告やゲームといった既存事業さえ、将来にわたって安泰なわけではない。もはや「ベンチャー」を卒業して久しい同社が現状に甘んじれば、大企業病に陥って10年後には繁栄が終わりかねないリスクがある。
藤田氏がAbemaTV事業に躍起になる背景には、そんな危機感がある。頼るのは過去の成功体験から導き出した、藤田流の経営手法だ。「ワンマン」と「集団指導体制」という二律背反ともいえる経営を同時に実践することである。
番組の細部まで社長が関与
昨年11月、AbemaTVで放送された「72時間ホンネテレビ」。国民的な人気を誇ったアイドルグループ元「SMAP」の香取慎吾さん、草彅剛さん、稲垣吾郎さんの3人が、ジャニーズ事務所からの独立後初めて共演。ネットの番組への出演も初めてで、3日間にわたって様々な企画に挑戦するという内容だ。1人が何度もアクセスした回数を含む視聴数は7400万。AbemaTV開局以来の最多記録となった。
この番組はAbemaTVにかけるサイバーエージェントの本気度を業界内外に知らしめた。こうしたコンテンツの企画制作は、藤田氏が自ら主導している。その手法は、まさに「ワンマン経営」だ。
藤田氏は、「トンガリスト会議」と呼ぶ週1回の企画会議に必ず出席する。サイバーエージェントとテレビ朝日の双方から参加する制作スタッフと、企画の内容を議論。タイトルやキャスティングなども含め、企画の内容に細かく関与、自身が最終的に決裁する。
「全てのコンテンツについて、驚くぐらい細かく藤田がチェックしている」。AbemaTVの制作局長としてオリジナルコンテンツの制作を統括する谷口達彦執行役員はこう語る。
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