もちろんフレクストロニクスにとって靴の製造は初めて。まず、アジアの靴工場を視察し、手作業中心の生産工程の問題点を抽出。長年蓄積したレーザー加工の技術を生かし、レーザーでも生地に焦げ目をつけず切断できるシステムを開発した。

 金型を交換せず、幅広いサイズの靴を一度に生産できるようになり、オーダーメードの注文にも素早く応じられるようになった。さらに材料をムダなく使用することで廃棄物も半減できたという。現在までに合計1億足のナイキの靴をフレクストロニクスの工場で生産している。

 このような新規分野の製品がフレクストロニクスの売上高に占める比率は、2010年の15%から2016年には37%に拡大した。これを2020年には45%にまで高める計画だ。

 もちろん電子機器の製造から完全に脱却するという意味ではない。「全ての産業を顧客にしたい」とCMO(最高マーケティング責任者)のマイケル・メンデンホール氏は強調する。その先に見据えるのは、「Internet of Things(モノのインターネット化)」の時代だ。

 シリコンバレーの都市、ミルピタス。ここに構えられたフレクストロニクスの「イノベーションセンター」には、同社がさまざまな企業と共同開発したIoT機器が多数展示されている。スマホの無線充電器が内蔵されたハンドバッグや、身体情報をリアルタイムで計測しスマホに情報を送る指輪、スピーカーやディスプレーが搭載されたジャケットなど、ユニークな製品が目を引く。

 衣類や住宅、インフラなど、あらゆるものがネットにつながるIoTの時代。バッテリーやモーター、通信機器などエレクトロニクスの技術はEMSの得意分野だ。これが「非エレクトロニクス」製品に搭載されるようになれば、これまでEMSと関係がなかった業界にも商機は広がる。例えば、シューズ型ウエアラブルデバイスの市場が立ち上がった際には、ナイキとの提携で培った靴の生産技術が生かされるはずだ。

 一方でフレクストロニクスはあくまでも“黒子”にこだわる戦略は変えない。鴻海が自社ブランドを持つシャープのようなメーカーを買収したり、台湾の大手EMSである和碩聯合科技(ペガトロン) のように自社ブランド製品を手掛けたりすることは考えていない。「設計から生産、販売に至るまで、顧客企業を徹底的にサポートし続ける」(メンデンホールCMO)。

世界の生産状況を一元管理

 エレクトロニクス以外の新たな分野への参入や、多品種少量生産の強化など、既存のEMSとは異なる戦略を相次ぎ打ち出すフレクストロニクス。2016年3月期の売上高は2014年3月期と比べ6.4%減の244億ドルだが、純利益は16%増の6億4500万ドル。改革の成果は業績に表れ始めている。

売上高は横ばいだが、利益は回復
●企業ロゴも刷新
●企業ロゴも刷新
  • ●フレクストロニクスとは
  • 従業員:約20万人
  • 顧客数:1000社超
  • 工場:世界100カ所
●フレクストロニクスの業績推移
●フレクストロニクスの業績推移

 大胆な事業構造の転換をスムーズに進められる理由の一つが、生産現場の柔軟な変化対応力。それを支えているのは、世界100カ所の工場と1万4000社を超えるサプライヤーの状況をリアルタイムで一元管理する「パルスプラットフォーム」と呼ばれる管理センターだ(下の写真左)。

<b>世界100カ所の工場と1万4000社以上のサプライチェーン情報を一元管理(左)。需要に合わせて生産量や品目を柔軟に変更する。右の写真は日本の工場</b>(写真=右:陶山 勉)
世界100カ所の工場と1万4000社以上のサプライチェーン情報を一元管理(左)。需要に合わせて生産量や品目を柔軟に変更する。右の写真は日本の工場(写真=右:陶山 勉)

 工場の稼働状況や生産個数、サプライヤーの在庫情報、自然災害の情報…。この管理センターには世界中の拠点からありとあらゆる情報が集まってくる。情報は整理され、22枚のパネルがつながった大型タッチパネルディスプレーに地図やグラフなどのデータとして表示される。管理担当者はここで世界中の拠点の状況を把握しながら、各工場やサプライヤーに指示を出す。

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