「従来型のEMSとして事業を続けていては生き残れない。強い危機感を覚えた」。同社のコンシューマー・テクノロジー・グループのプレジデント、マイク・デニソン氏はこう振り返る。EMSは生産技術で他社との差異化が難しい。いかに安く作るかの競争を続ければ、収益性は低下する。EMSは完成品メーカーからの受託製造で成り立つため、将来に向けた独自の成長戦略も立てにくい。そんな厳しい環境から脱却するため、「2015年から事業方針を180度転換した」(デニソン氏)。

普通のEMSとここが違う!
●フレクストロニクスの新たな戦略
普通のEMSとここが違う!<br />●フレクストロニクスの新たな戦略
(写真=林 幸一郎)

 フレクストロニクスが目指す新たなビジネスモデルは、鴻海をはじめとする他のEMSとは抜本的に異なる。その象徴の一つが、冒頭に登場した「ミニ工場」なのだ。

 2015年にオープンしたこの拠点では、主にものづくりのベンチャー企業を対象にしたビジネスを手掛けている。ベンチャーが持ちこんできたアイデアを基に、フレクストロニクスの社員が共同で設計開発し、3Dプリンターなどを使い試作。工場内に設置された小さな生産ラインで、量産技術を磨く。

 「量産できるようになれば、彼らはここから『卒業』できる」。同施設を立ち上げた、フレクストロニクスのスティーブン・ヘインツ氏はこう説明する。ミニ工場を「卒業」した製品は、世界各地にあるフレクストロニクスの工場で、量産される。つまり、この施設は単なる試作の場所ではなく、後々、フレクストロニクスの世界の工場で効率よく生産するための「予行演習」の場なのだ。

 一般的に、少品種の大量生産を得意とする大手EMSは、規模が小さく需要見通しが立ちにくいベンチャー企業の製品を好まない。だが、フレクストロニクスは、他の大手EMSが敬遠するこの空白地に商機を見いだした。「汎用化された製品を大量に造るだけでは差異化することは難しい。ベンチャーと一緒にアイデアから量産技術まで作り込み、付加価値の高い製品を多品種少量で手掛けた方がメリットは大きい」。ヘインツ氏はこう言い切る。

 2015年のオープン以来、同施設を利用したものづくりベンチャーを中心とする企業は約1000社。厳しい事前審査を通過した企業のみが利用でき、卒業にかかる期間は3カ月から1年と様々だ。製品としての差異化が難しかったり、量産技術が確立できなかったりし、「中退」する企業もある。1社が卒業すればまた新たな企業が入る。こうした新陳代謝が繰り返されている。

 ベンチャー側にとってもメリットは大きい。フレクストロニクスの工場で量産できれば、同社の世界的な物流ネットワークを活用し、一気にグローバル展開できるからだ。顧客名は明かせないというが、世界的にヒットしているスマートウオッチもこうして誕生したもの。現在、試作量産中の電動スケートボードが、フレクストロニクスの巨大工場で本格量産される日も近い。

「そんなモノまで作るの?」

 もう一つ、ライバルのEMSと異なる点が、「EMS」でありながらも「E」のElectronics(電子機器)以外の分野の受託製造を急拡大していることだ。手掛ける分野は靴やジャケット、医療機器など幅広い。これまで蓄積してきたものづくりのノウハウを生かし、従来のEMSが手掛けてこなかった新市場へと参入している。

 2015年、フレクストロニクスは米ナイキからスポーツシューズの製造を受託した。「40年変化のなかったシューズ業界にものづくりのプロの知見を投入し、シューズ製造に革命を起こす」(ナイキのエリック・スプランクCOO=最高執行責任者)ことが狙いだ。

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