「登録IT技術者の平均年収は約780万円」
フリーランスのIT技術者を企業に紹介する「ギークス」
個人で働くIT技術者と企業の間を取り持ち、手厚いサポートサービスを提供する。国の働き方改革も追い風に、多様な働き方を社会に浸透させることを目指す。
技術者のスキルアップや人脈作りにつながるイベントも積極的に開催(写真=陶山 勉)
最大で約79万人の人材が2030年に不足する──。このような経済産業省の試算が物語るのが、IT(情報技術)業界の現場で深刻化する人手不足の問題だ。国は長期的な視点から小学校でのプログラミング教育などの人材育成に力を入れるが、現状でもIT技術者は足りなくなっている。
そこで注目されているのが「フリーランス」の人材だ。高いスキルを持ち、特定の企業に所属せず、個人事業主としてプロジェクトごとに取引先と契約を結ぶ。業務委託であり、企業と雇用契約を結ぶ派遣社員とは異なる。優秀な技術者にとっては働き方の自由度が高く、実力次第で正社員以上に大きな報酬を得られる。企業にとっても優れた技術者を雇用の義務を負うことなく、効率的に活用できるメリットは大きい。
とはいえ、フリーランスで働く側は得られる収入や実際の業務内容に関して不安がある。企業側には人材のスキルや得意・不得意な業務などを正確に知りたいという悩みがある。こうした不安を解消し、最適なマッチングの実現を支援して成長しているのがギークスだ。登録技術者は2017年3月末までに1万2000人に達する見込みという。
フリーランスの活躍の幅が広がっている
●人材事業の累積登録者数の推移
技術者1人を3人でサポート
「これまでにどのような技術を習得されてきましたか?」「どのような業界や分野に関心をお持ちですか?」。東京都渋谷区にあるギークスの本社では、同社の担当者がフリーランスの技術者と日々きめ細かな面談を行っている。
ギークスのサービスの特徴は、1人の技術者に対して3人の担当者が付く手厚い支援体制だ。
技術者が登録すると、ギークスのコンサルティング担当者が個人の技術レベルや希望条件などをヒアリング。「技術者の能力と希望する条件にズレがある場合、厳しく指摘することもある。フリーランス技術者の市場価値を正確に把握することがマッチングに重要だからだ」(小幡千尋・執行役員)。
その上で営業担当者と連携し、適性に応じた案件を紹介する。ここでは発注する企業が求めるスキルや役割、作業環境などを細かく説明し、互いの条件が合致すれば契約となる。取引実績がある企業の数は約3000社に上り、受注までの期間は49%が1週間以内。ギークスはこの発注者側から手数料を受け取るビジネスモデルだ。
受注が決まり、実際に働き始めた後も、サポート担当者が電話や面談を通じて契約中の悩みや今後のキャリアパスなどの相談に乗る。小幡執行役員は「コンサルティング、営業代行、アフターケアという3つの役割を担うことで、技術者の不安を解消し、仕事に集中できるようにしている」と説明する。
また、フリーランスの悩みで多いのが、契約書類の作成など様々な事務作業を自分でやらなければならないということ。ギークスでは専用のシステムを構築し、こうした事務作業を効率的に処理できるようサポートしたり、代行したりするサービスも提供する。さらに、スキルアップ研修会や、技術者同士の交流会などを定期的に開催。登録者の技術力の向上や人脈作りの手助けもしている。会社員向けの福利厚生に代わるものとして、カルチャースクール、レジャーなどの割引・優待サービスもそろえている。
平均年収は780万円
一方、企業の側にとっても、技術者のスキルや希望をギークスが詳細に把握していること、モチベーションを高めるサポート体制を敷いていることが大きなメリットとなる。需給のミスマッチを防ぐことで、プロジェクトごとに最適な技術者に安心して仕事を任せられる上、開発体制やコストのコントロールも柔軟にできるためだ。
「フリーランスに絞って事業展開してきたのが我々の強み。産業構造の変化が追い風になっている」。ギークスの曽根原稔人社長はこう語る。東証ジャスダックに上場するインターネット企業のクルーズを創業した人物だ。IT人材事業は同社の一事業として2002年に開始。2007年にギークスの前身企業を設立し、2009年に独立させた。
「雇用についての根本的な議論を深める必要がある」と指摘する曽根原社長(写真=陶山 勉)
当初はメーカーや金融機関のシステム開発などへの技術者紹介が主力だった。しかし2008年秋のリーマンショックを境に、こうした大手企業からの受注が急減。顧客開拓をネット企業に切り替えるなど転換を図った。その後、ネット業界がフリーランスを積極活用する環境が整い、現在の規模にまで事業を拡大させてきた。
手厚い支援がフリーランスの技術者に支持され、多数の優秀な人材が集まっている。ギークスに登録する技術者の平均年収は約780万円。業界平均(2015年の厚生労働省の調査でプログラマーが408万円、システムエンジニアは592万円)を大きく上回る。フリーランスの技術者がベンチャー企業のCTO(最高技術責任者)として招かれるケースも出てきているという。
2016年秋には経済産業省がフリーランスをはじめとする多様な働き方についての研究会を発足させるなど、国も積極的な活用を推進する構え。ギークスの成功を受け、競合のサービスも続々登場して競争は激化している。
曽根原社長は「フリーランスの支援が産業にとりプラスになるのは確か。ただ、雇用の流動性をどう考えるかとか、雇用に関する法律を時代に合わせてどう変えていくべきかとか、より根本的な議論も深める必要がある」と指摘する。今後も業界の変化を先取りし、先頭を走り続ける考えだ。
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