15年越しの事業構造改革

 一連のリストラで、計上した最終赤字は500億円超。血を流しながら財務体質の改善を図り、余剰資金は成長分野に集中投資してきた。例えばスマートフォンやテレビで普及し始めた有機EL関連の事業。「19年までに独自の強みを持つフレキシブル型パネルの素材や高分子型発光材料などを市場投入する」(築森元常務執行役員)。エネルギー関連の分野でも、EV(電気自動車)に搭載するリチウムイオン電池の部材が拡大。CO2(二酸化炭素)を低コストで回収できる分離膜も17年に事業化した。今や営業利益の8~9割をこうした「高付加価値事業」が稼ぎ出す。

石油化学の依存度を下げてきた
●営業利益の構成比の変化
石油化学の依存度を下げてきた<br />●営業利益の構成比の変化
注:その他事業などを除く
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 しかし、構造改革はまだ終わりではない。足元の好決算の背景には、「石化製品の市況改善という追い風があり、げたを履いた状態」(大手証券アナリスト)。医薬品事業の稼ぎ頭である抗精神病薬「ラツーダ」の特許切れが19年1月に迫り、有機ELや電池材料も競争激化は避けられない。

 安定した収益拡大を目指す上では、「祖業」の強みを生かして世界に根を張る農業関連事業の成長が欠かせない。15年越しの事業構造改革の成否はそこにかかっている。

INTERVIEW
十倉雅和社長に聞く 「勝てる土俵」で勝負する
(写真=菊池 一郎)
(写真=菊池 一郎)

 化学業界は今、厳しい国際競争のただ中にあります。2017年8月、米化学大手のダウ・ケミカルとデュポンが経営統合し、マンモス企業が誕生(売上高約8兆円)。欧州の大手も様々な事業再編によって規模の拡大を急いでいます。さらに中国や中東の国営、準国営の化学メーカーも、巨大な資本力を武器に、野心的に事業拡大を進めています。

 化学産業の中で、規模のメリットが最も働くのは、石油化学や基礎化学といった「バルクケミカル」の分野です。そうした大量生産による価格競争力がモノをいう「規模の戦い」に、売上高2兆円余りの当社が挑んでも勝てる見込みはありません。

 そこで我々は、資本力ではなく、「技術力」と「マーケティング力」で勝負できる分野に資金を集中的に投入することにしました。健康・農業関連事業、有機ELパネル素材などの情報電子化学事業、リチウムイオン電池用部材などのエネルギー・機能材料事業、医薬品事業の4つです。それぞれの領域の世界大手とも競争できる「勝てる土俵」を作ってきたわけです。

 それが徐々に実を結び、18年3月期には過去最高の営業利益を見込むところまできました。足元の石化製品の市況が良いのも一因ですが、頑張って育ててきた高付加価値の事業がきちんと「稼ぐ力」をつけてきたことが大きい。石油化学以外のこうした事業が営業利益に占める割合は8割を超えており、ポートフォリオ改革は、8合目まで来たと思っています。

 中でも大きな期待をかけているのが、健康・農業関連事業です。農業は「伸びしろだらけ」の分野だからです。国内では「担い手不足」「国際競争力の強化」、世界に目を向ければ人口爆発による「食糧危機」や農業に打撃を与える「気候変動」など、深刻な課題が山積しています。だからこそ、我々にとっては無限の商機がある。

 1913年に肥料の製造で創業した当社には、世界に誇れる農業関連技術の蓄積があります。これをベースに、スタートアップなどと連携しながらIoTやバイオなどの先進技術をスピーディーに取り入れることで、農業が抱える様々な問題を解決できる製品やサービスを作ることができます。それこそが、農業と共に歩んできた当社にとっての「勝てる土俵」だと思います。(談)