「コバンザメ」で攻める

 住友化学は2つの手を打った。

 1つ目は「コバンザメ戦略」(西本麗専務)だ。住友化学は世界大手が持っていない独自の有効成分を開発し、それを大手に提供、新しい農薬開発に役立ててもらう。製品化されれば、彼らの販売網を通じて“住化製品”は世界に広がるわけだ。

 すでにドイツのバイエルやBASF、米国のダウ・デュポンやモンサントなど並み居る大手と相次いで有効成分の供給などに関する技術提携を実施。「20年までに各国で使用許可の申請をする4つの有効成分だけで、年商1000億円を超える見込みだ。自社の販売網だけで商いをしようとしたら、とてもその規模に達しない」と西本専務は語る。

 何年も使用しているうちに耐性を持つ細菌や害虫が現れ、徐々に効果が薄れていくのが農薬だ。農薬メーカーには常に新しい有効成分を作り出すことが求められる。農薬関連の特許保有数で欧米大手と肩を並べ、業界内で「世界屈指の開発力」ともいわれる強みを生かさない手はない。その手立てがコバンザメのように大手に寄り添いながら自社の収益に結びつける戦略だった。

 もちろん、技術力さえあれば、共存共栄の関係を構築できるほど、現実は甘くはない。自社の収益に確実に結びつく有利な条件で提携する仕掛けが欠かせない。

 それが「自力で売る力」。10年にはオーストラリアの農薬最大手ニューファームに資本参加。現在約20%を出資する筆頭株主で、31カ国で農薬を相互販売している。16年には農薬市場が急拡大するインドの農薬大手を買収。10位だったインド市場での住友化学のシェアは3位に高まった。西本専務は「逆説的に聞こえるかもしれないが、自力で売る力を身につけることが、強いコバンザメになる近道」と話す。

大手と組む「コバンザメ戦略」で事業拡大目指す
●欧米大手の農薬売上高と最近の提携
大手と組む「コバンザメ戦略」で事業拡大目指す<br />●欧米大手の農薬売上高と最近の提携
注:売上高は2016年時点の見込み額。
=2016年にバイエルがモンサントの買収で合意

 地力をつけ、相手にその実力を認めてもらうことで、欧米大手との提携交渉に挑む。11年には海外市場を担当する国際アグロ事業部を中心に、海外子会社の社員も含む精鋭10人を集めた「事業機会開発チーム」を立ち上げた。チームを統括する国際アグロ事業部の斉藤一雄グローバルリードは「欧米の大手各社の担当者と毎週30分は電話で互いの事業の状況や課題をざっくばらんに話す。現場同士の情報交換チャネルを作ることが、互いにメリットがある提携に結びつく」と実感する。

ニッチ市場を深掘りする

 国際競争で生き残るために住友化学が実践してきたもう一つの戦略が、ニッチ市場の深掘りだ。

 その代表例が、「バイオラショナル」製品だろう。バイオラショナルとは住友化学の造語で、人工的な化学物質ではなく、天然の微生物や植物ホルモンを使った農薬や成長調整剤のこと。環境や健康への影響を抑えられる他、種なしの果物を作る、根の吸水力を高めて乾燥した土地でも育つようにする、といった独自の機能も持つ。この分野で、住友化学は「世界のトップを走る」(梅田公利国際アグロ事業部長)。世界の農薬市場は約6兆円で、年率2~3%で成長している。その中でバイオラショナル製品の市場規模は、まだ1500億円程度だが、年率十数%で急拡大しており、住友化学は20年に450億円の売り上げを見込む。

 実は同社がこの事業を始めたのは、20年近くも前のこと。00年に米国の医薬会社が持っていた同事業を買収。環境や健康の社会的ニーズが拡大することを見越して、市場参入した。「独自のノウハウが必要で、農家に使用方法を丁寧に指導する必要があるなど営業の手間もかかるため、欧米の大手は敬遠してきた分野。しかし『手間のかかる市場』ほど、参入障壁は高く、利益率も高い。いち早く参入して、ニッチトップの座を確立しようと考えた」。梅田事業部長は、そう当時を振り返る。

 17年8月には、協和発酵バイオの植物成長調整剤事業を買収し、日本でも事業拡大を本格化。「勝てる土俵」をさらに盤石にする。

 住友化学は03年、石油化学事業の強化を目的にした三井化学との合併交渉が統合比率で折り合わず破談に終わり、「代替戦略」(十倉社長)を迫られた。それが、農業や医薬、エレクトロニクスなどの強化だった。11年に米倉弘昌前会長(前経団連会長)から経営のかじ取りを任された十倉社長は、改革を加速。15年には石油化学の象徴である「エチレンプラント」を停止し、40年以上続いたエチレンの国内生産から撤退した。

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