追随を許さぬ強み

 住友化学も有機ELパネルの部材やEV(電気自動車)に搭載するリチウムイオン電池向け部材など、新素材に力を入れるが、他の日本の総合化学大手と一線を画す「勝てる土俵」がある。それが農業だ。

 住友化学と農業のかかわりは深い。1913年に肥料製造の事業で創業し、53年に農薬関連の事業を開始。農薬国内最大手の顔を持ち、「他の追随を許さない強みを持っている」(大手証券アナリスト)。「健康・農業関連事業」の売上高比率は2割に満たないが、利益面では稼ぎ頭で、2019年3月期には営業利益の43%を担う計画だ。

「農業」を成長の起爆剤にする
●健康・農業関連事業の売上高と営業利益
「農業」を成長の起爆剤にする<br />●健康・農業関連事業の売上高と営業利益

 農業を取り巻く環境変化が住友化学の背中を押す。国内では後継者不足に加え、TPP(環太平洋経済連携協定)や欧州連合(EU)とのEPA(経済連携協定)などで本格的な国際競争が始まり、農家にとっては生産性の向上や収益の安定化が大きな課題。世界に目を転じれば、食糧危機への対応が急がれる。国連は人口が100億人近くに達するとされる50年までに食糧生産を60%引き上げる必要があると指摘する。十倉社長は「農業は、かつてないほど難題が山積している。逆に言えば、それだけ課題解決につながる商品やサービスの商機がある、伸びしろだらけの市場だ」と強調する。

 住友化学の農業関連事業は単に肥料や農薬を提供するだけにとどまらない。

<span class="fontBold">各地の農家と協力し、コンビニエンスストアや外食で引き合いが急増している業務用米の新品種の生産に取り組む</span>
各地の農家と協力し、コンビニエンスストアや外食で引き合いが急増している業務用米の新品種の生産に取り組む

 例えば、16年に本格化した「コメ事業」。外食や中食の増加によって、コンビニエンスストアや外食チェーンで使われる安価な「業務用米」の需要が急増していることに着目。14年、バイオベンチャーの植物ゲノムセンター(茨城県つくば市)から、業務用に適したコメの新品種を買収して取り組み始めた。

 この新品種はコシヒカリなどと比べて面積当たりの収量が2割多く、冷めてもおいしいと評価が高かった。稲の背丈が低いため台風でも倒れにくく、安定供給が期待できた。

<span class="fontBold">「冷めてもおいしいコメ」など、中食・外食需要に対応した品種の開発を続ける</span>
「冷めてもおいしいコメ」など、中食・外食需要に対応した品種の開発を続ける

 住友化学は、全国約50の農協を経由して農家にこの新品種の生産を委託している。種もみと専用の農薬・肥料をセットで販売する一方、農家が収穫したコメを全量買い取り、卸を介して、大手コンビニやスーパーに供給する仕組みだ。業務用米のため、住友化学の買い取り価格は家庭用米よりは安い。だが、収量が多いため収入増が見込め、販売先があらかじめ確保されているので、価格も安定している。「農家にとっては収入の安定が一番」。山形県で新品種の栽培に取り組む、JA鶴岡営農部の池田順一部長はこう評価する。

 住友化学では17年に約1500ヘクタール(ha)だった作付面積を、20年までに1万haまで拡大し、農業資材と買い取ったコメの販売収入を100億円に引き上げることを狙う。コメ事業推進部の六反田琢推進チームリーダーは、「小売りからの引き合いに全く追い付かない。新品種のメリットを丁寧に伝え、協力農家をさらに広げていく。稲作を市況や政策によって振り回されない、“普通の産業”に変えていきたい」と力を込める。

 着々と国内で農業関連事業の裾野を広げる住友化学。だが、海を渡れば、巨大なライバルがひしめいている。上の図に示したように、住友化学の農薬売上高は世界大手と比べると大きく見劣りする。今後は海外勢が日本市場で攻勢を強める可能性もある。どう世界の競合と戦っていくか。

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