店を開けておく必要はない

 「眼鏡店なんてそんなにお客が来るわけでもない。お客からの依頼があれば店を閉めてでも行け」(星﨑氏)──。

出張サービス
横浜市の老人ホームでの出張販売。外商グループの鎌倉氏(左)と一緒に眼鏡を選ぶ飯島さん(右)

 メガネスーパーは高齢者など自力で来店するのが難しい客のところへ出向いて、眼鏡のクリーニングや販売をする出張ビジネスにも力を入れる。これは地域に根付いた「まちの眼鏡店」ならやっていたこと。メガネスーパーも以前は実施していたが、眼鏡単価の下落で採算が取れなくなってからはほとんど廃止していた。

 16年に改めて注力し、これまでの累計訪問件数は2500件にも上る。本社の外商グループは全国を飛び回り老人ホームなどの施設を新規で開拓。定期訪問する施設だけでも200以上ある。

眼鏡市場の低迷は単価下落も要因
●眼鏡の小売店総売上高と眼鏡単価の推移
注:眼鏡光学出版「眼鏡データベース2017」より作成

 施設訪問では、レンズのクリーニングだけなら無料。出張費も取らない。信頼関係が築ければそれでいい、と割り切っているからだ。だが、一度購入してもらえば売り上げは大きい。平均客単価は4万円を超え、毎月3000万円の売り上げがある。これは大型店1~2店舗分の月間売り上げに相当する。

 メガネスーパーの訪問サービスを定期的に利用する横浜市の老人ホーム「イリーゼ横浜センター南」の村上雅子生活相談員は、「本当に助かっている」と笑う。車椅子の入所者を連れて店に行くのは家族にも介護士にも労力がいる。そこで同社のサービスを利用することにした。

 眼鏡を購入した入所者の飯島登美江さんは、「以前からレンズのクリーニングをしてもらっていた。眼鏡を買おうと思ったとき、最初にメガネスーパーが思い浮かんだ」と話す。「高齢者以外にも来店が難しい人はたくさんいる。ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のお客様や酸素ボンベをつけているお客様の元へ行ったこともある」(外商グループの鎌倉謙介氏)

 全く新しい事業モデルが登場することで業界の勢力図はいとも簡単に変わる。携帯電話がスマートフォンに変わるほど劇的ではなくても、ユニクロが登場した衣料品業界や眼鏡業界でも短期間で、盟主が入れ替わった。いまはさらにあらゆる業種に、米アマゾン・ドット・コムのようなネット企業が攻め込む。では時代の覇者の座から転落した企業は、どのように生きていけばよいのか。メガネスーパーは、かつて自分たちが追い込んだ、まちの眼鏡店のサービスを現代流に磨き直して、自社の武器にしようとしている。日本の高齢化が進む中で、他の業種にもヒントを与える取り組みだろう。

はい上がったものの強み

地方チェーンのM&A
2016年に富山のメガネハウス(左)を買収し、17年には大阪のシミズメガネ(右)を譲り受けた

 同社はさらに将来を見据えた手も打ち始めた。業界は寡占化が進んでおらず、大手から中小まで様々な規模の企業が存在している。各地域に知名度の高い地場の店が存在するため、自ら出店するのではなく、買収する道を選んだ。業界の淘汰再編が不可避ならば、自ら主導しようという思惑だ。

 16年には富山を中心に約20店舗展開する「メガネハウス」を買収、17年には大阪の「シミズメガネ」をグループ化した。

AR眼鏡
農業や観光など幅広い分野での活用を見込む

 「敵の敵は味方」。かつては大量仕入れで価格破壊を起こし、地場の中小眼鏡店に打撃を与えたメガネスーパーだが、現在はジンズなどSPAの低価格帯ブランドに押されている。以前は敵同士だったが、今や低価格帯ブランドに立ち向かう仲間。丁寧な検眼や出張販売を実施するなど共通点は多く、メガネスーパーがどん底からはい上がったノウハウも生かせる。

 新規事業にも力を入れる。昨年設立した「Enhanlabo(エンハンラボ)」では、AR(拡張現実)眼鏡を開発する。観光案内や製造工場、医療現場など、様々な場面での使用が想定される。

黒字転換は果たしたが、財務基盤はいまだに脆弱
●メガネスーパーと同業他社の業績比較
注:ビジョナリーHDは2017年11月に設立
株価は100円割れが続いている
●メガネスーパー(17年11月からビジョナリーHD)の株価(1月末まで)

 上場廃止寸前から再建を遂げつつあるメガネスーパーだが、課題も少なくない。業績は順調に回復しているとはいえ、ピーク時の07年に比べれば現在の売り上げは半分程度しかない。さらに自己資本比率が同業他社に比べて圧倒的に低く、財務基盤が弱い。SPA型のジンズは売り上げも営業利益も堅調で、自己資本比率も安定している。量販店モデルの三城ホールディングスや愛眼は営業損益はマイナスだったが、自己資本比率が70%超だ。

 一方、メガネスーパーは2.1%。つまり、これから戦略投資に打って出るための、基盤がおぼつかないのだ。

星﨑氏を超えられるのか?

 懸念材料はもう一つある。星﨑氏の後を誰が継ぐか、ということだ。投資ファンドはいずれ資本を回収する段階に入る。となれば、必然的にファンドの指名を受けて入社した星﨑氏の進退も左右されるだろう。

 「ビジョナリーHDに骨をうずめる覚悟だ」と星﨑氏は話す。資本面では、別の投資ファンドなど新たなスポンサー探しや、MBO(経営陣が参加する買収)などの大胆な施策も選択肢に入るはずだ。いずれにせよ次代へのバトンタッチは重要になる。

 「候補者はある程度絞り始め、昇進にも差をつけている。キャラバンの1号車メンバーは候補者たちだ」と星﨑氏は言うが、思考停止を脱した社員が、最終的には星﨑氏自身を超えるような人材になれるかどうか。「俺を超えられるのか?」。星﨑氏が次に投げかけるのは、この問いだろう。

 栄枯盛衰が激しい眼鏡業界に今度は、ネット販売の「オーマイグラス」など次代の勢力も台頭してきた。メガネスーパーも一息つく余裕は全くない。

 競合他社と体力勝負を続けるのではなく、現場の力を重視しながら、自らの強みを見つめ直そうとする取り組みから学べることは多い。長い低迷期を抜け出したいま、新たな飛躍の種を育てることができるか。再生劇の第2幕が始まった。