2次元画像のみならず、3次元画像、動画と扱う画像の種類も多様化している。2次元で「丸」と認識していた細胞が、3次元だと「チューブ状」であることが分かることもある。扱うデータ量が増えればそれだけ作業量も増える。

28歳の島原佑基・代表取締役が目指すのは「生命科学分野におけるPhotoshop(アドビシステムズの画像ソフト)」(写真=竹井 俊晴)
28歳の島原佑基・代表取締役が目指すのは「生命科学分野におけるPhotoshop(アドビシステムズの画像ソフト)」(写真=竹井 俊晴)

 画像の“重み”も増している。数枚の画像から読み取った優位な差だけでは、論拠に乏しいと見なされることが増えた。大量の画像から統計的に優位を証明する必要に迫られている。

 その一方、STAP論文問題の影響などもあり「論文に画像を掲載する際にビクビクする研究者は少なくない」(島原氏)。扱う量と比例して、研究者や科学者の画像分析レベルが上がるわけではない。このままでは研究者が画像データの処理や分析をする“作業者”になってしまいかねない──。島原氏がそんな危機感を持ったのは、自らも研究者だったからだ。

 現在28歳の島原氏は大学学部時代に遺伝子工学を専攻。多いときで40ものプロジェクトに関わっていた。「1日で30ギガビット(ギガは10億)もの画像を撮影して、それを1週間かけて解析することが普通だった」(島原氏)。

 ある製薬メーカーでは、信じられない光景を見た。画像内の細胞の生死を、3人のパートタイマーの女性が目視で判断していたのだ。増え続ける画像の量に比べ、処理能力が追いついていないことを実感した。

 大学院修了後、経営や海外事業を学ぶため、インターネットベンチャーのグリーやKLabといった企業で経験を積み、2014年3月に起業した。

人工知能でがん細胞を解析

 エルピクセルのソフトの価格帯は20万~500万円。大学や研究機関などへの販売に加え、企業や団体との提携プロジェクトを事業の中心に据える。創業2年目ながら、2016年3月期では単月での売上高が1000万円を超える月も出ており、2017年3月期は2億円の売上高を目指す。

 企業や団体との提携プロジェクトや画像解析の受託の数は、40件以上。そのうちの一つ、国立がん研究センターとの共同事業では、がん細胞の診断支援にまで踏み込む。

 従来は専門医が画像を目視で確認していたがんの有無や、どのような治療が適切かの判断を支援するソフトを開発中だ。例えば、肺がんが、肺由来なのかほかの臓器からの転移なのかを画像で分析する。どの臓器由来かを見分けられれば、より正しい治療法の選択につながる。

 画像の分析には人工知能を利用。機械学習のほかに、自ら学習し精度を上げていく「ディープラーニング」と呼ぶ新しい技術も活用する。細胞の形や生死などを自動で判定でき、利用ごとに精度が上がる独自の人工知能プログラムは特許を取得済みだ。

 世界的に見れば生命科学分野の画像解析の分野では後発となる。一方、現時点で競合となるソフトウエアは世界で10もなく、対応するOS(基本ソフト)がウィンドウズのみだったり、クラウド上では利用できなかったりする。エルピクセルは複数のOSやクラウド上でも利用できるようにすることで優位性を打ち出せると見ている。

 「データ解析に利用できる何百何千の特徴をどう見極め、解析するかが腕の見せどころ。“IT屋さん”には難しい」と島原氏。研究者として養った知見をシェア拡大に生かせるとの自信を持つ。来期は企業や研究機関との共同事業を10件程度増やす予定。画像という世界共通の“言語”を解析し、日本発のソフトで世界市場を目指す。

(日経ビジネス2016年2月15日号より転載)

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