製薬事業では、現状で特効薬のない肝硬変を治す新薬を開発している。日米で治験が進んでおり、2018年の製品化を目指す。日東電工が薬そのものを開発した経験はない。核酸医薬という新しい分野の薬を合成する技術は蓄積しており、受託事業を展開してきたが、「お客さんの設計図通りに作るのではなくて、うちの既存技術を生かせば患者さんに直接向き合えると思った」と丸山景資・事業開発統括部長は話す。

 肝硬変薬を今後どう事業展開していくかは「今年中にも方針を決める」(髙﨑社長)という。既に製薬メーカーからの打診も増えているが、丸山部長は「医薬品メーカーに技術を提供するのも一つの手だが、自分たちの手で患者に薬を届けたいという思いもある」と語る。つまり日東電工が近い将来、医薬品メーカー、つまり「完成品」のメーカーになる可能性があるわけだ。

 製薬分野への進出は従来の挑戦とは事情が異なる。新薬が製品化にこぎ着ければ大きな利益になるが、研究開発自体に投資がかさむ。失敗した際の痛手も大きい。最初はどんなテーマでも可能性があれば小さく、幅広く投資して財務負担を抑え、その後勝ち筋だと判断したものに大規模投資して事業化へのアクセルを踏む、これまでの勝ちパターンからすれば、医薬品開発は明らかに異質な事業だ。日東電工は3年後に創業100年を迎える。これまでニッチで磨いてきた粘りの必勝パターンが製薬事業でどこまで通用するか。その成否が「次の100年」を大きく左右することになりそうだ。

【INTERVIEW】
西岡務CTO(最高技術責任者)に聞く

可能性のある技術を「培養」する

 当社は液晶パネル向けの偏光板などでシェアが高く、この分野に注目が集まりがちだ。ただ本来の強みは特定の分野にあるのではなく、様々な業種、業界で「こういうものを待っていた」という製品を開発し続けるところにある。三新活動のコンテストでサツマイモ農家向けシートを高く評価したのも「日東電工らしい」と思ったからこそ。この製品があれば、イモ農家は一部の重労働から解放され、腰を痛めなくて済む。

 仮説を立て、課題を先取りし、実際にオーダーが出る前に製品を提案する。この繰り返しが日東電工の長期的な成長を支えてきた。独り善がりの研究や需要のない製品開発を防ぐために、技術者は本社と事業部、各国の研究所の3部門を極力経験させるようにしている。研究所にこもって、お客さんから遠くなっては有用な技術は出てこない。

 お客さんのニーズがいずれ出ると信じ、技術者が本気になって開発しているものに関しては、基本的に自由にやらせる。ただ採算を厳しく問われる事業部門が、当面利益を生まない技術を抱え込むには限界があるだろう。

(写真=大亀 京助)

 そこで今年4月、本社に多軸創出統括部を設立した。長期的に見れば可能性があるが時間とお金がかかるものや、各部門にまたがって成果を生みそうな技術をここで引き取ってインキュベート(培養、育成)するのが目的だ。今はネオジム磁石や肝硬変薬など7つほどのテーマを抱えている。

 全てのテーマが成功してキャッシュを生む事業になるとは思っていない。でも真面目に向き合えば、失敗しても必ず何かが残る。開発が進んでいる肝硬変薬にしても、その肝となるドラッグデリバリーシステムという技術はこれまでどう生かせばいいか分からず、試行錯誤してきた。

 失敗はあって当然。それよりも怖いのは、失敗を恐れて誰がやってもすぐに作れるものに手を出すことだ。こうした分野はキャッシュが豊富で生産コストが低い企業にすぐにまねされる。

 今後の競争のポイントはサービスにあると考えている。これを暗示しているのが米アップルのiPhoneだ。この製品は消費者が使いやすく心地いいと思ってもらえるような設計を突き詰めている。製品を手に取る消費者が、「何となく使い心地がいい」と思えるものを、サービスと組み合わせて提供できるかが課題だ。(談)

(日経ビジネス2015年11月16日号より転載)