規制強化やマイナス金利。金融業を取り巻く環境は厳しさを増す一方。
その中で東京センチュリーは7期連続の最高益と快進撃を進めている。強さの要因は経営の自由さだ。
社名から「リース」を外し、固定観念に縛られない金融業の形を探す旅に出た。
従来はパソコンやサーバーなどIT(情報技術)機器のリースが主力。リース期間を終えた製品は、整備した後に中古市場で販売する(下:写真=都築 雅人)
千葉県市原市で設置を進める太陽光発電(写真は完成イメージ)。水上施設としては世界2位の発電量を予定する(左)
航空機エンジンなどを整備する米GAテレシスへ出資。リース後の航空機を市場で販売しやすくなった(上)
作業用ロボット「duAro(デュアロ)」。人手不足に悩む中小企業向け需要を見込む(右:写真=都築 雅人)
昨年10月、東京センチュリーは社名を変更した。旧社名は「東京センチュリーリース」。リースを取ったのは、もはやリース会社ではないという宣言だ。かといって銀行でもない。新しい金融業の形を模索し始めたのだ。「業態を変えていかないと一流にはなれない」と浅田俊一社長は語る。
挑戦の一つが千葉県市原市にある。遊園地「千葉こどもの国キッズダム」の横に位置する、工業用水向けの巨大貯水ダム。その水上に昨年春から年後半にかけて約5万枚もの太陽光パネルが急ピッチで敷き詰められた。
配電網の整備を完了すれば、2017年度中にも稼働が始まる見込み。発電量は水上発電としては世界トップレベルの約14メガワット(メガは100万)。一般家庭約5000世帯分の電力を賄うことができる。
このプロジェクト、東京センチュリーはパネルのリース会社としてではなく、運営主体として参画している。千葉だけではない。2012年に京セラと立ち上げた共同出資会社を通じて、既に50カ所で太陽光発電施設の運営を開始している。資産残高は2017年度に1000億円まで積み上がり、環境エネルギー事業などで7000億円の資産規模を持つオリックスの背中を追う。
利益率が5倍に拡大
一般にリース業は、太陽光パネルなどの装置を事業主にリースして、一定のリース料を受け取る。低リスク低リターンの事業だが、事業主体となってリスクを取ることで「投資金額に対するリターン(粗利益率)は1%から5%くらいに増える」(浅田社長)。
半面、事業がうまくいかないと損失を被りかねない。実際、再生エネルギーの買い取り価格はここ数年右肩下がりで、事業計画を取りやめる動きも国内では出てきている。東京センチュリーはどうするのか。「発電事業で手にした知見を生かして、次は蓄電池や変圧器に関する事業の米国展開を計画している」(中島弘一副社長)。
なぜ、本業だったリース事業からの脱却を急いでいるのか。
東京センチュリーの顧客基盤は国内に2万5000社。これら企業に出向いて「新しい機材や設備の投資計画はありますか」と営業をかけ、パソコンやサーバーなど、4~5年での取り換えが必要なIT(情報技術)機器などのリース需要を取り込んできた。
しかし、日本企業が海外へ生産拠点をシフトする中で、国内の設備投資は伸びない。リース事業協会によると、2015年度の国内リース取扱高は5兆円強と、最盛期の1991年度(8.8兆円)に比べ4割も減少している。成長に向けて東京センチュリーは新たな事業展開を進める必要に迫られていた。
現在の東京センチュリーは2009年、日本勧業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)系の東京リースと、伊藤忠商事と旧第一銀行(現みずほFG)系のセンチュリー・リーシング・システムが合併して誕生した。合併当時からトップを務める浅田社長が経営改革を進め、国内リース事業が全社売上高に占める割合を、合併当初の81%から48%まで引き下げている。
国内リースへの依存度を減らしている
●事業別の資産残高
エネルギー関連ビジネスと同様、需要拡大が見込めると見定めた分野には徹底して経営資源を投入するのが東京センチュリーの流儀だ。
その典型が航空機事業。2012年にLCC(格安航空会社)のジェットスター・ジャパンへ出資したのを皮切りに、同年に米国の航空機部品会社、GAテレシスを持ち分法適用会社に組み入れるなど、次々と投資を実行している。
2014年には米金融グループCITと航空機リースの合弁会社を立ち上げた。しかしCITは米国の金融規制などの理由で航空関連事業を切り離し、中国企業に売却することとなる。これにより事業拡大のペースは一旦緩むが、「2017年3月期中には新しいパートナーと提携できそう」と浅田社長は強気の姿勢を貫く。
国内で労働力不足が問題化する中、ロボット事業にも素早く乗り出した。川崎重工業と提携し、作業用ロボット「duAro(デュアロ)」を人手不足で悩む中小企業にリースするサービスを昨年開始した。
ニッポンレンタカーではアジア系の利用者が増えている(写真=船戸 俊一)
訪日観光客の増加にも目をつける。ニッポンレンタカーサービスを2013年に子会社化し、インバウンド需要を取り込んでいる。北海道の千歳空港営業所では、道路標識を説明する英語パンフレットを用意。予約ホームページは英語や韓国語、中国語に対応した。
外国人利用者は昨年12月に約400組と1年前に比べて8割増えた。アジア客が中心で、「ソフト面での訪日客のニーズを取り込めた」(浅田社長)。さらには、これら経験を生かし、訪日する富裕層を想定した高級リゾートホテルの展開も九州で計画している。
積極経営の効果は業績に表れている。2016年3月期まで7期連続最高益で、今期の連結経常利益も前期比6%増の720億円となる見通し。株価も2009年4月の合併から6倍以上に伸びた。マイナス金利で苦しむメガバンクが同期間で2割程度しか伸びていない点と比べ、東京センチュリーの成長ぶりが分かる。
株価は設立当初の6倍に
●東京センチュリーとメガバンクの株価推移
その東京センチュリーが新事業に取り組んでいる。舞台はインドネシアだ。「アジア発の金融改革をつかみ取りたい」と浅田社長は意気込む。
昨年11月、現地の大手財閥リッポー・グループと提携すると発表。2017年中にもスマートフォン(スマホ)を介した金融サービスを始める計画だ。
スマホによる「金融革命」を目指す
●インドネシアで計画する新サービスの流れ
給与明細よりネット履歴
東南アジアは金融業にとって実に難しい地域だった。住民の多くは銀行口座を持たず、保有資産の把握が難しい。給与も正しく申告されないケースが多く、与信管理は困難を極めた。
そこで東京センチュリーが着目したのが、スマホとAI(人工知能)の連携。金融サービスの仕組みはこうだ。
住民の多くはスマホを保有しており、そこに個人情報が集約されている。スマホを使ったネット通販の利用状況を把握し、支払い漏れがないか、どの価格帯の商品を買ってきたかといった履歴を集める。
さらに、SNS(交流サイト)の投稿を分析、仕事や友人関係などを把握。集めた個人情報をAIで分析し、個人の与信力を算出する。個人がネット通販を利用する際、決済画面で「あなたには、いくらまで貸せます」と表示して融資につなげる。「中間層はスマホで全ての決済をしている。新サービスは金融の概念を変える可能性もある」とインドネシア現地法人の本田誠社長は語る。
東京センチュリーの自由さは、銀行との、つかず離れずの絶妙な距離感で成り立っている。競合の銀行系リース会社は、銀行による出資比率が2桁を超え、銀行法の制約を受け事業投資などが制約されることが多い。
新事業のノウハウ獲得が急務
東京センチュリーの場合、みずほ銀行の出資は4%台にとどまり、太陽光発電事業への参入などが可能となった。
一方、みずほ銀行からの資金調達ルートは維持されており、独立系リース会社のオリックスなどと比べ、調達金利を低く抑えられるメリットを持つ。
自由な金融業を目指し、事業運営などに軸足を移してきた東京センチュリー。しかし、新規の投資案件が多く、様々な事業に関してノウハウを集積している段階とも見て取れる。より早く事業に関する知見を高め、市況変動時にも対応できる力を付けるかが今後は焦点となってくる。
INTERVIEW
浅田俊一社長に聞く
金融・商社・メーカーの中間目指す
日本でリース会社は銀行系列が多く、金融業の一部と捉えられている。一方、リース業が生まれた米国では、サービス業と認識されている。顧客企業が装置や設備を導入するのを金融面でサポートするだけでなく、自ら事業も手掛けるのが一般的だ。
当社も、エネルギー事業に参画するなど、金融の枠にはまらない会社になっている。金融と商社、メーカーという3つの業態の中間地点にある会社だと考えている。「『金融×サービス×事業』の新領域へ」という標語を掲げている。
金融緩和政策で、市場に大量のマネーが出回っている状況では、融資で得られるマージンは非常に薄い。金融業全般にとって厳しい環境となっている。
従来型のリース事業で与信リスクを取る。自ら手掛ける事業を拡大して、事業リスクを増やす。この2つの方法でしか、収益を拡大することはできない。
自動車や航空機などは生活や経済活動にとって必需品で、需要は安定して伸びている。特に航空機は今後20年間で世界の機体数が現在の2倍に増える有望市場だ。今後も注力していく。
米CITとの航空機リース事業の提携期間は3年より短かった。この分野はメンテナンスのノウハウ獲得や国際的ネットワーク作りに最低5~10年の経験が必要。当社には新しいパートナーが必要と認識している。交渉は進んでいるので、近いうちに発表できると思う。
東南アジアでは、まさに金融革命が起きている。東南アジアで配車サービス最大手のグラブ(シンガポール)と提携した。運転履歴や顧客からの評価などの情報を集めることで、ドライバーへの与信が簡単にできる。オートリースなどに結びつけられると想定している。東南アジアは経済が成長し、金利を高く設定できる地域なので、十分ビジネスターゲットになると見ている。(談)
(日経ビジネス2017年2月13日号より転載)
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