コメ卸の最大手だが、回転ずし業界の大型再編を主導するなど、いまや「M&A仕掛け人」の顔も持つ。昨年だけで9社に出資し攻勢をかける一方、今年は本格的に農業にも参入。食ビジネスの変革を目指す。保守的な食品業界では異例の戦略だが、その原動力はすべて、創業4代目、藤尾社長の強い危機感にある。

(日経ビジネス2018年2月12日号より転載)

(写真=左下:北山 宏一)

 新潟県南魚沼市。豪雪地帯の幹線道路を進むとキノコ生産大手、雪国まいたけの第3バイオセンターが現れる。

 マイタケで国内約50%のシェアを持つ同社の主力生産拠点だ。延床面積8万m2を超す広大な建物の中、発生室と呼ばれる部屋に入ると、丸々と育ったマイタケの株が棚に大量に配置され、棚は天井高くずらりと並ぶ。日々、3万7000株、31トンをここから出荷する。

 地方の名企業として知られる雪国まいたけだが、2013年以降、経営は混乱の極みだった。不適切会計の発覚や創業家が絡む内紛の末、15年に米投資ファンドのベインキャピタルに買収され上場廃止となった。そのベインが、雪国まいたけの再スタートを託したのが、食の業界に旋風を巻き起こしている、神戸市のコメ卸、神明だ。

 同社は17年9月、雪国まいたけの49%の株式を取得。取締役を派遣して神明の事業ネットワークを使って、どのように、キノコのビジネスを拡大できるか戦略を練っている最中だ。幹部として経営混乱の時期を耐え抜いた後、雪国まいたけ社長に起用された足利厳社長は「当社が手薄な西日本と海外に販路を拡大できる」と期待する。さらに神明ならではの相乗効果は、グループの外食店舗を活用できることだ。

 「元気寿司のメニュー向けとしてマイタケの天ぷらなどの商品化を提案している」(足利社長)。神明は12年、回転ずし大手、元気寿司の株式を取得、現在40%を所有する。同社は国内153店、海外175店を展開している。天ぷらはサイドメニューであっても、多くの店舗で毎日提供されれば、安定的な売り上げ拡大を計算できる。

 そもそも神明がM&A(合併・買収)と企業の立て直しで、名を上げたのは、この元気寿司からだ。同社は1990年代後半から、低価格競争に巻き込まれ、業績が悪化した。うどんチェーン、グルメ杵屋と資本提携してからも成長に限界があった。そんな経緯の後、筆頭株主となった神明は、元気寿司社内の実力幹部を社長に引き上げた。

 「神明の藤尾益雄社長からは『思い切りやりなさい』と言われた。細かく注文を付けることはなく、背中を押してくれた」と、元気寿司の法師人尚史社長は話す。社長になる以前、同氏が開発に携わった、100円均一業態「魚べい」を神明傘下になって以降、積極的に出店。海外での事業展開と併せて、業績を大きく伸ばしてきた。

 だが、回転ずしのM&Aを巡って、神明には苦い経験がある。

 2013年に神明は、業界大手で業績悪化に苦しんでいたカッパ・クリエイトホールディングス(HD)に出資。そして元気寿司との統合構想を大々的に発表したのだ。神明の藤尾社長はカッパ・クリエイトHDの会長兼社長に就任し、統合へのステップを進めようとしたのだが、翌14年には、統合を断念。保有するカッパ・クリエイトHDの株式を外食大手コロワイドに売却した。「経営方針が折り合わず断念せざるを得なかった」と神明の藤尾社長は振り返る。

 だが、ここであきらめず、虎視眈々とチャンスをうかがった。