その後、京東は取扱品目を増やし、複数の店舗を構えるチェーン店に成長した。だが2003年、中国全土をSARS(重症急性呼吸器症候群)が襲い、事業環境は急変する。市民は不必要な外出を控え、街中は閑散。ビジネスどころでなくなった。顧客と向き合う店舗の従業員も、いつ、誰から感染しないとも限らない。

●京東の売上高推移
<small>●京東の売上高推移</small>

 劉氏は悩んだ末、04年にEC(電子商取引)への事業転換を決断する。京東は丁寧な配送などを前面に掲げ、もともと強い電化製品の販売を中心に売り上げを伸ばす。09年には食品なども取り扱い、総合化を果たす。13年には取扱高が1000億元(現在のレートで約1兆7000億円)を突破し、翌14年には米ナスダック市場に上場した。

 京東はSARSを機にリアルの小売業からは手を引いた。だが、自前で物流を構築し、ハードウエアの研究開発を進める戦略には、リアルで商品を売ってきた遺伝子が息づく。

日本企業とも深い関係

 日本企業との交流も深い。最初に中関村で販売店を開いた時に、取引に真っ先に応じてくれたのも日本企業。今もネット通販サイトで、数多くの日本商品を販売している。

 物流でも昨年、ヤマトホールディングスと提携した。「世界でも先端を行く日本の物流、特にコールドチェーン物流について学びたい」と京東物流の王CEOはその狙いを語る。

 最近、立ち上げた生鮮スーパー事業でも日本企業が手を貸す。三菱ケミカルホールディングスと共同で野菜工場を建設しており、「今年の半ばにはこの野菜工場の商品が並ぶようになる」と生鮮事業部の王笑松総裁は話す。

 オンライン上でのプラットフォーマーのアリババに、リアル店舗での事業も交えて対抗する京東。だが、グループ全体の規模で見ると、その差はまだ大きい。ナスダック市場に上場する京東の時価総額は643億ドル(約7兆1000億円)。一方、米ニューヨーク市場に上場するアリババは7倍超の4924億ドルの時価総額を誇る(いずれも1月23日終値ベース)。

 京東集団の業績は売上高こそ飛躍的に伸びているものの、利益では先行投資がかさみ赤字が続いている。世界的な大企業となったアリババの向こうを張って、京東が大きな元手が必要な新しい技術やビジネスへの先行投資を続けていけるのか疑問は残るが、劉氏は「稼ぐ力は急速に高まっている」と強調する。

 今後カギとなるのは、14年に京東に出資した中国のIT大手、騰訊控股(テンセント)との協業だろう。テンセントは中核のゲーム事業が好調で、時価総額はアジア企業トップの5000億ドル超だ。最近は米グーグルとの特許共有で合意した中国を代表するテクノロジー企業でもある。

 アリババをライバル視するテンセントは、EC分野については京東に任せる戦略を取っている。最近では仏カルフールの中国法人が、テンセントによる資本参加計画を発表するなど、京東のリアル店舗で展開する小売事業と相乗効果を生み出せそうな動きもみせる。

 米国では、アマゾンと売上高では世界一の地位にあるウォルマート・ストアーズという、IT企業と伝統的小売企業の戦いになっている。一方の中国では、アリババやテンセント、京東といったIT企業間の戦いがオフラインにまで及んできた。

 そうした中で、ネットとリアルとの融合に活路を見いだし、物流や小売りの新技術に逆転をかける京東。その動向次第では、中国で消費財を売りたい日本企業だけでなく、物流や店舗に関連する製品を持つ企業にとっても、新しいビジネスの機会が生まれるかもしれない。