レジ代わりとなるのが、出口につながる通路の床に設けられた「足形のマーク」。来店客がここで立ち止まると、商品に取り付けた無線タグから購入商品を認識する仕組みだ。前方のディスプレーにこの来店客の顔写真と購入商品の情報が表示されれば、決済完了の合図。通路奥の出口の扉が開く。

 来店客は自分のスマホで購入者情報と決済アプリをひも付けておくだけ。店舗の入り口以外ではスマホを取り出す必要もない。来店した30代の女性は「とても便利」と満足そうに話していた。

アマゾンの「先を行く」無人店舗

 アマゾンの無人店舗では、店内の天井一面に取り付けたカメラで顧客を追跡し、どの商品を手に取ったかを認識する。最先端の画像認識とAI(人工知能)技術を活用するので、京東の無人店舗のように、商品に無線タグを貼り付けることはしない。

 技術的にはアマゾンがリードしているようにも見えるが、京東で無人スーパーを開発したX事業部の肖軍総裁は意に介さない。「実用化では我々が先を行く」と自信たっぷりに話す。

 実際、京東では煙台の1号店に続き、遼寧省大連市や天津市の店舗も相次いで開業している。商品のサプライチェーンを持つ小売企業や、店舗立地の権限を持つ不動産企業と組んで店舗を広げる考えで、昨年12月には中国の不動産デベロッパー、中海地産との提携を発表した。肖氏によれば、「2018年中に500店超を出す計画を立てている」という。

 ネットから現実世界へ──。「アマゾン・エフェクト」なる言葉も登場しているように、アマゾンをはじめとするネット企業によるリアルの小売りやサービスへの進出が世界的に活発になっている。それは、中国も例外ではない。米国のネット通販の世界では「アマゾン1強」の構図だが、中国では、アリババ集団というガリバーがいるものの、ライバルたちとの熾烈な競争が続いている。

アリババの背中を猛迫する
●2017年1~6月中国消費者向けECシェア
アリババの背中を猛迫する<br /><small>●2017年1~6月中国消費者向けECシェア</small>
出所:中国電子商務研究中心

 その中で、アリババを「射程」にとらえる企業こそ、京東だ。中国のBtoC(企業・個人間)ネット通販市場では、アリババの「天猫(Tモール)」が約5割のシェアを握り、京東は24.5%とまだその差は大きい。それでも、京東は、ネットとリアルを融合する戦略で、逆転は可能だと、本気で考えている。

 京東は無人スーパーのほかにも、無人倉庫やドローン、無人配送車などの研究開発に多額の資金を投じている。1月にはネットで注文でき、配達もしてくれる生鮮スーパー「7FRESH」をオープン。3~5年の間に1000店以上に増やす目標を掲げる。

<span class="fontBold">京東のネット通販アプリ</span>
京東のネット通販アプリ
<span class="fontBold">無人配送車は大学内などで使用</span>
無人配送車は大学内などで使用

 ネット通販企業とはいえ、京東はかねて「リアル」のインフラを抱えてきた。自前で築き上げた物流網だ。ここが商品の売買プラットフォーム作りに徹してきたアリババとの最大の違いであり、差異化戦略の要である。

 中国のネット通販市場は00年代に入ってから急速に立ち上がったが、ほんの数年前まで、自宅に届く商品を詰めた段ボール箱はぼろぼろで、商品が壊れていることすらあった。そこに目をつけて、京東は物流網を自前で構築。専用のユニホームを着た宅配員が、段ボール箱を間違いなく丁寧に運ぶ姿は当時の中国では斬新だった。

 京東はそんな安心感を与えるサービスで、消費者の評価を得てきた。今でこそ、中国でも宅配時間の指定など、日本と同様のきめの細かなサービスを各社が競うが、その先鞭をつけたのは京東だった。

<span class="fontBold">江蘇省や陝西省で実証実験中の配送用ドローン</span>
江蘇省や陝西省で実証実験中の配送用ドローン
<span class="fontBold">無人倉庫や無人の仕分けセンターで効率化を図る</span>
無人倉庫や無人の仕分けセンターで効率化を図る

 物流網の進化は続く。配送用のドローンでは、江蘇省や陝西省で現地政府の許可を得て飛行テストを繰り返している。現在の小型ドローンに加えて、重さ1トンの荷物まで運べる「重量型」ドローンのテストも間もなく始める予定だという。

 倉庫の革新にも挑む。現在、90%以上の作業を人手に頼っているが、18年中に自動化率を50%まで高める計画だ。中国は日本ほど人手不足には陥っていないが、物流部門の子会社、京東物流の王振輝CEO(最高経営責任者)は「中国は国土が広く、人も多い。大都市では人件費も上昇しており、ドローンや無人倉庫による物流の効率化が欠かせない」と話す。

 ドローンや無人スーパーなどを研究しているのが、X事業部。もともと倉庫の効率化などからスタートした部門で、今も京東物流に属する。「京東のビジネスや商流に関わるハードウエア技術の開発に責任を持つ」とX事業部の肖氏は説明する。

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