ホーカン・サムエルソンCEO(最高経営責任者)に聞く
クルマの売り方、作り方が変わる


この数年の好調な業績の要因をどう分析していますか。
「大きく3つあります。まず、魅力的な製品を開発できたこと。ボルボには顧客の大切なものを守るための安全性、使いやすいインターフェース、そしてスカンジナビアンデザインという3つのコアバリューがあります。それらの独自性を前面に押し出せていることが、他のプレミアムブランドとの違いを際立たせています」
「2つ目は企業をグローバル化したことです。我々にはホームが3カ所あります。欧州と米国、そして中国を中心とするアジアです。米サウスカロライナ州で現在、新工場を建設している最中です。市場が広がったことで、会社が大きくなったのです」
「そして最後が独立性です。ボルボは独立した会社であり、独自の決定権を持っています。親会社に依存した時期がありましたが、今は独立しているので素早く判断できる。これは(中国の浙江吉利控股集団=ジーリー・ホールディング=に買収された)2010年に始まったことです」
それまでボルボは米フォード・モーター傘下の企業でした。フォードとジーリーとを比べて異なる点は。
「フォードの傘下だった時代はボルボは、『一部門』という扱いで、フォードから様々な指示を受けました。一方、ジーリーは我々のオーナーですが、経営の自由度は非常に高い。取締役会にジーリーのメンバーは入っていますが、彼らが注視しているのはガバナンス面です。マネジメントの決定権は我々にあります。そこが大きく違う点です」
ジーリーはボルボのブランドを大切にしていると。
「正確に言うならば、『ブランドの独立性』を彼らは重視しています。(ジーリー・ホールディング傘下の吉利汽車とは)完全に別のブランドで、ボルボはボルボ。我々はグローバルなプレミアムブランドとしての位置付けです」
チャイナマネーが世界の企業に触手を伸ばしています。付き合い方の秘訣は。
「中国企業に買収されたことで、我々は中国市場に早い段階で新車を投入できる環境を手に入れました。もちろん、財務的な支援もあります。一番良いアドバイスができるとしたら、(ジーリーのように)ガバナンスをきちんと監視するにとどめて、マネジメントに細かい注文を出さない相手を見付けるべきということでしょう」
近年のボルボは、車種だけではなく販売面でも独自性を強めている印象を受けます。
「プレミアムブランドの独自性を高めようとすれば、新しい顧客との接点が必要になると考えました。EC(電子商取引)サイトもその一環です。もはや、顧客がディーラーに来るのを待つ時代ではありません」
「近い将来、さらに新しい拠点を用意するつもりです。それが、『シティーボルボショップ』という街の中心だけに存在する小さな店舗です。ストックホルム、マンハッタン、東京、ミラノの4カ所を予定しています。プロが接客し、顧客の志向を聞いてコーディネートするのです」
米ウーバー・テクノロジーズとの提携が話題になりました。自動車とソフトウエアの垣根が消える現状をどう捉えていますか。
「これからも我々が必ず自前で担うのは、クルマ作りの部分です。ほかの自動車メーカーとパートナーになることは、今後もあり得ない。クルマ作りでの伝統的な協業では、アイシン・エィ・ダブリュやデンソー、三菱電機といった部品メーカーとの関係がこれからも続くでしょう。ただ、未来の開発はこれまでの関係とは違ってくる。その一例が自動運転なのです」
ウーバーはライバルではないと。
「私自身は競争相手ではなく、パートナーと考えています。A地点からB地点まで移動するという実態は変わらない。彼らは移動というサービスを提供しようとしています。我々が提供できるのはハードウエア。消費者にとって魅力的なソリューションになればいいのです」
2020年に80万台の世界販売台数の目標を掲げる一方で、営業利益率は独ダイムラーなど競合する高級車メーカーに見劣りします。
「主力製品である60ファミリーと40ファミリーで新車の発売を予定しています。特にアジア地域での販売が伸びるでしょう。80万台は割と簡単に達成できると見込んでいます。ボリュームが増えればマージンが上がります。小型車ではジーリーとの共通部分を増やします。営業利益率も徐々に上向いていくと見ています」
(日経ビジネス2016年11月14日号より転載)
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