10月、その外に積まれた数十台のクルマはどれも窓枠のピラーが切断されていた。どうすれば事故時に運転者や同乗者を救出しやすいかを検証したのだ。その結果を踏まえてピラーの位置を変えることも視野に入れている。

 自前の事故調査隊を持ち、事故現場に駆けつけて現場を徹底的に検証するのもボルボ流。事故と同じ状況をセーフティーセンターで再現し、シートベルトなどの作動状況や、衝撃を車体がどう吸収したかを確かめる。

 自動運転技術の開発では、人間の判断・行動の分析が欠かせない。これまで蓄積した豊富な知見が、自動運転時代にも生きるとボルボは考えている。

 10月1日に開幕したパリモーターショー。そこにボルボの姿はなかった。それまで世界100カ所以上のショーに参加していたが、どれも母国メーカーの強い存在感の中に埋もれてしまう。そこでスイスのジュネーブ、中国(上海・北京)、米デトロイトに絞り込んだ。

 マーケティング手法をガラリと変える。その姿勢を示すのがネット販売へのシフトだ。2014年、自社でクルマのEC(電子商取引)を開始。販売店の補完という位置付けだが、試行錯誤を続けている。

 水色が目印のレーシングチーム「ポールスター」。ボルボが昨年7月に買収した際、関係者は「なぜ今、買うのか」と首をかしげた。メルセデス・ベンツの「AMG」やBMWの「M」など、高級車各社はスポーツ仕様ラインを持ち、ブランド力を強化している。一方、ボルボのもう一つの狙いはネット販売強化だった。

 「我々は実験場だ」。ポールスターのニック・コナーCEOはこう明かす。「ボルボのネット販売は限られたモデルで期間も限定されている。(ポールスターは)常時、買えるようにして、成功したらボルボ全体に展開する」(コナーCEO)。ネット上で仕様をカスタマイズする販売モデルが視野に入っている。

 「全く新しい店舗を準備している」。サムエルソンCEOは、東京など世界4カ所で都市中心部に超小型店舗を設置する計画を初めて本誌に明かした。ショールームとして、そして新たな顧客との接点として、ECとの相乗効果を高めるといった狙いがある。

 ECサイトで日用品を買ってから待つこと2時間。現れた配達員はスマートフォンを操作して開けたトランクの中に荷物を置いていった。

 ボルボが今年5月に始めた配送サービス「イン・カー・デリバリー」。現地のベンチャー企業や北欧最大の物流会社ポストノードなどと共同開発した、注文した商品をボルボ車に届けるサービスだ。既にスウェーデンやノルウェーなどで利用でき、今年10月時点で1万人が登録した。北欧のECサイトの80%をカバーする。

 これを可能にしたのが、「キーレス化」だ。今年2月、ボルボはほかの自動車メーカーに先駆け、2017年までにクルマの鍵を全廃すると発表した。その代わり、専用のアプリケーションが入ったスマホを「デジタルキー」として使う。一部の車種で既に採用しており、配達員が一時的にトランクを開けることが可能になった。

 「これからはクルマが情報のプラットフォームになる。デジタルキーを使った他のサービスのアイデアも持っている」。新サービスの担当者であるロバート・ジャグラー氏はこう話す。

 スマホが鍵代わりになれば、複数のドライバーが乗るライドシェアなどのサービスにも展開がしやすくなる。

<span class="caption001"><b>ボルボの事故調査隊。事故現場に駆けつけて原因を分析する</b></span>
ボルボの事故調査隊。事故現場に駆けつけて原因を分析する
<span class="caption001"><b>本社の隣にある「セーフティーセンター」。あらゆる角度から衝突実験が可能な施設で、実際の事故と同じ状況を作り出す。「安全」へのこだわりはボルボのアイデンティティーだ</b></span>
本社の隣にある「セーフティーセンター」。あらゆる角度から衝突実験が可能な施設で、実際の事故と同じ状況を作り出す。「安全」へのこだわりはボルボのアイデンティティーだ

規模の追求とは違う戦い方

 自動運転技術の開発や新たなマーケティング手法、そしてクルマを軸にした新サービス。ボルボがリソースを振り向けられるのは、選択と集中を徹底しているためでもある。

 「規模が小さければ、レーザーのように焦点を絞ることができる。5年前、我々は自分たちがなすべきことを決めた」。研究開発部門トップのピーター・メーテンス上級副社長はこう言う。

 ジーリー傘下に入った直後、ボルボは4つの重点分野を決めた。「コネクティビティー(接続性)」「PHV(プラグインハイブリッド車)」「EV(電気自動車)」「自動運転」だ。

 車種を絞り込み、高級車の代名詞とも言える6気筒や8気筒エンジンの開発をストップし、2.0リットル以下に絞ることを決定。FCV(燃料電池車)を開発しないことも決めた。新プラットフォームをEVにも対応させ、2020年に新車の10%を電動化車両とする目標を掲げる。

 「顧客の大切なものを守ること。これが我々のコアバリューだ」。サムエルソンCEOはこう言う。

 ボルボにとって、かつて「大切なものを守る」とは強固な車体による「安全」を意味した。それが今では事故をゼロにするための自動運転や、クルマを情報や生活の基盤とするためのサービスに変わりつつある。時代に合わせ、クルマを再定義しようとしているのだ。

 環境規制の強化や自動運転の実用化などを背景に、自動車産業では合従連衡や新規参入が続く。プレーヤーが増える中、いかに個性を際立たせるか。小規模メーカーならではのスピード感で我が道を突き進むボルボの姿は、規模の追求だけが戦い方ではないと主張しているようにも見える。