

メヌケにハチビキにメガネウオ、さらにはコバンザメまで──。
大阪・北浜の居酒屋「典」には、知られざる高級魚が並ぶ。「珍しくてうまい魚が入ったから、試しで食べてみいひんか」と大将が勧めると、注文がひっきりなしに入る。こうした珍しい魚を卸しているのが、食一(京都市)だ。
食一は漁師や漁業協同組合と居酒屋や回転すしなどの飲食店を仲立ちし、鮮魚を産地から直送している。通常の鮮魚の卸売りと異なり、市場に出回らない珍しい鮮魚を積極的に仕入れ、店舗にダイレクトに卸している。
最近ではIT(情報技術)を活用した鮮魚流通ベンチャーが多く生まれているが、その多くは仕入れを安定させるために卸売市場も併用している。そんな中、食一の田中淳士・代表取締役(冒頭写真の右)は、「鮮魚は市場からの直送のみに限っている」と独自路線を行く。
買いたたくのではなく高く売る
認知度が低い魚は、従来は廃棄されるか、安く買いたたかれるしかなかった。それでは漁師はその魚を積極的には集めてくれず、扱いも雑になって鮮度が落ちてしまう。
そこで食一は、一般には知られていないが味のいい魚を仕入れ、食材で差異化を図りたい居酒屋や回転すし店などになるべく高く売ることを基本方針としている。
例えば、毒を持ち危険生物として知られるミノカサゴは、タイと同じ値が付くという。「サバやアジなどどこでも買える魚を扱うと、値段の勝負になってしまう。その縛りから脱却したかった」と田中代表は説明する。
食一は田中代表が同志社大学在学中の2008年に立ち上げたベンチャー企業だ。仕入れ先となる漁師や漁業協同組合にも、売り先となる飲食店にもツテもコネもないところから事業をスタートさせた。ここ数年は30%を上回るペースで成長しており、2016年8月期の売上高は6000万円を記録。2017年8月期は同1億円を見込んでいる。
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