日本生命のREVOへの累計投資は数百億円規模とみられる。その効果は山岡さんのような成績上位者よりも、むしろ若手に出やすい。顧客情報を入力しておくと、誕生日など保険営業の好機を事前に知らせてくれる。新人の営業職員は必要書類を忘れたり、記入漏れを見逃したりといったミスを起こしがちだが、REVO導入で大量の書類を持ち歩く必要はなくなり、端末を使う職員本人への注意喚起などもできるようになった。これにより、新人職員の負担は軽減した。

 今年9月、REVOの機能が拡張され、契約後の保全作業などもペーパーレス化した。日本生命は営業職員の業績を評価する際、取ってきた契約の「継続率」を重視している。例えば、契約から1年以内で解約された保険があった場合、その分の成績は消滅する。さらに販売した保険全体の継続率が極端に短くなると、いくら短期間で契約件数や保障額を積み上げたとしても、成績優秀者の選考に入る資格すら与えない。

 契約者へのアフターケアは継続率の向上に直結する。REVOを機能拡張することで、営業職員が契約者の「その後」に寄り添う時間を増やせるようにした。

 補佐職の設置、営業支援端末の配布以外にも、日本生命の営業職員支援策はある。2015年に買収した乗り合い代理店「ライフサロン」がそれだ。

 乗り合い代理店は生保業界を取り巻く大きな変化の一つで、複数社の生保商品を店舗で取り扱う。ライフサロンはそのうちの一社だ。

 日本生命も新たな販路の開拓に乗り出したわけだが、他社の保険を売り、ともすれば営業職員の潜在顧客を奪ってしまいかねない代理店の買収が、なぜ支援策と言えるのだろうか。

 営業職員は保険の必要性に気付いていない顧客の掘り起こしには強い。しかし他社商品を扱わないため、顧客が複数の中からどんな理由で商品を選ぶ傾向にあるのかを知らない。「マーケティングの視点が足りなかった」(商品企画を担当する田中聡取締役)。

 乗り合い代理店で売れ筋商品の状況や顧客の購買行動と、それに対応した販売ノウハウなどを蓄積すれば、営業職員の底上げに活用することもできる。

米国ではなく、豪州へ

 ニッセイ基礎研究所の調査によると、2015年のアジア主要12カ国・地域の生保収入保険料は、中国やインドなどが軒並み前年比2ケタ以上の伸びを記録しているのに対し、日本は3%増にとどまっている。

 筒井社長は「業界ナンバーワンにこだわる」と意気込む。その原動力は国内の営業だとも言う。しかし国内市場の縮小は確実で、10年、20年先を見据えた成長ドライバーを確保することも急務だ。

 海外市場の開拓は業界共通の課題。第一生命が2015年に米プロテクティブ生命を約5750億円で買収し、口火を切った。続いて住友生命が米シメトラ・ファイナンシャルを約4700億円で、明治安田生命が米スタンコープ・ファイナンシャル・グループを約6200億円でそれぞれ傘下に収めた。いずれも世界最大市場である米国に橋頭堡を築こうという動きだ。

米国で大型買収が相次いでいる
●国内大手生保の最近のM&A案件
米国で大型買収が相次いでいる<br />●国内大手生保の最近のM&A案件

 そんな中で日本生命は2015年、豪ナショナルオーストラリア銀行(NAB)傘下の保険会社MLCの買収を発表した。それまでの海外M&Aは、日本に比べて保険制度の整備が遅れている中国、インド、タイ、インドネシアなど。成長が見込める市場だが、各国とも海外生保の出資に規制などもあり、いずれもマイナー出資にとどまった。本格的な次の一手として目を付けたのが同業他社のように米国ではなく、豪州だった。

アジアで地歩を固め、豪州へ
●日本生命の海外M&A
アジアで地歩を固め、豪州へ<br />●日本生命の海外M&A
❶出資または買収した年 ❷海外保険会社名 ❸現在の出資比率 ❹累計投資額

豪社買収にかけた3年

 国際業務を所管する西啓介取締役が直接の交渉担当者となったが、交渉期間中、日本生命とMLC双方の職員が相手国を訪れた回数は計70回にもなる。「およそ3年を費やした」と西取締役は笑う。即断即決が主流のM&A市場で熟慮を重ねたのは、MLCだけでなく、その親会社だったNABとの協力関係を深め、進出先で確実に保険販売を広げることができるという確証が欲しかったためだ。結局、買収完了後もNABがMLCの商品を20年間にわたって売り続けるということが決まり、約1750億円の買収は決まった。

 世界最大の米国市場を狙うよりも、相手先との信頼関係を重視し、着実に契約が増やせる豪州を優先する。日本生命の海外戦略は、国内営業の強化と同様、地道さが身上だ。業界トップ堅持の要諦は、意外にもその泥臭さなのかもしれない。

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