商品だけでの差別化が難しく、営業力が業績を大きく左右する生命保険業界。首位を走る日本生命保険の原動力は、約5万人いる国内最大規模の女性職員たちだ。国内生保業界を取り巻く環境変化に対応し、地道な改善を積み重ねている。
川崎駅前営業部の山岡由佳さん(左)は、2015年に日本生命の全営業職員中でトップの成績を収めた。同営業部では様々な年齢層の女性が働く(中、右)(写真=3点:竹井 俊晴)

 「先方との信頼関係は築けていると思うんですが、どうしても契約につながらなくて」「焦らないで。提案の仕方を変えてみたらどうかな」──。若手のセールスレディーが先輩に業務上の悩みを相談し、アドバイスをもらう。どの会社でもよくある光景だが、国内最大手の日本生命保険が独特なのは、「補佐」と呼ばれるこの先輩社員が、後輩の育成のためだけに存在している点だ。

 支社や営業部で業務に当たる彼女たちは成績優秀者から選抜されるが、ひとたび補佐になると営業ノルマは課されない。全国に4000人弱いる補佐の業績評価はただ一つ。「後輩の成長」にかかっている。

子育て・介護の事情も共有

 補佐1人の受け持ちは、入社したての職員4~5人ほど。2年の育成期間中、アポイントの取り方から提案書の書き方、客先への同行までを現場で支援する。アドバイスした後輩の営業成績や在職年数の長さが、そのまま補佐の成績になる。

 日本生命が2011年度から全社横断で始めた「人材育成推進会議」の中心となるのも補佐だ。月に1回、現場の支社長や営業部長を交え、受け持つ職員一人ひとりの成績や今後の育成方針を共有する。小さい子供や介護の必要な親がいるため働ける時間に制限がある、といった個別事情も共有し、働き方にきめ細かく配慮する。

 日本生命は全国に約5万人の営業職員を抱える。その9割以上が女性だ。業界未経験者も多いセールスレディーを効率的にスキルアップするには、座学や合同研修だけでは間に合わない。最も効果的な方法は成績優秀な職員と組ませることだが、販売ノルマを抱えたままでは育成に身が入らず、先輩と後輩で競争関係になってしまっては元も子もない。

9割以上を女性が占めている
●日本生命の営業職員の全容
注:全ての職種で、転居を伴う転勤なし

 そこで日本生命は若手指導だけを仕事とする補佐職を設けることにした。指導役と新人を組ませるメンター制度は広く普及しているが、販売ノルマから解放された純粋な育成部隊がこれほど多い会社は珍しいという。

「挨拶だけで結構です」

 日本生命の女性活用の歴史は古い。戦後間もない1953年、夫を失った寡婦に生活手段を与えながら、営業部隊として活用する取り組みを始めた。以降、「女性営業職員を活用する先駆者」として地道な改善を繰り返してきた。営業職員について、日本生命の筒井義信社長は「保険が必要かどうか気付いていない人の潜在的なニーズを掘り起こせる営業職員は、今後も主力であり続ける」と強調する。

 同社における営業職員の位置付けを端的に示すエピソードがある。今から20年ほど前、筒井氏が初めて支社長となった新潟県長岡市で、営業職員と同行してある企業を訪問することになった時のことだ。

 「お客様に何を話せばいいか」と思案を巡らせる筒井氏に、その営業職員は「挨拶だけで結構です」と返した。前回の保険契約を結んでから期間が短く、支社長とはいえ、すぐに次の成果を求める姿勢を見せれば顧客との関係が壊れる、というのが発言の意図だった。たとえ経営幹部であっても、「現場を仕切る営業職員の発言を軽視しない風土がある」(中堅社員)。

大手4社の中で日本生命が圧倒する
●営業職員チャネルの新契約年換算保険料
注:2016年3月期 出所:公表資料などから作成

 「日本生命の恐ろしさは、その営業力の強さだ」。ライバル生保の職員はそう話す。日本生命の営業職員が2016年3月期に稼いだ年換算保険料は2537億円。大手4社(日本生命、第一生命保険、明治安田生命保険、住友生命保険)の中で40%超のシェアを持ち、各社と倍近い差を付けている。

 圧倒的なシェアを持ちながら、全営業職員の1割近くを割いて補佐制度を通じた教育に力を入れるなど、日本生命は今も女性職員の営業力を磨こうとしている。なぜか。