台湾工場を拠点に、今後は中国や香港、韓国、東南アジアなど他のアジア地域にも事業を拡大していく計画もある。日本から輸出するより距離が近く、コストや賞味期限の観点で優位性がある。既に昨年タイへ進出し、今年はベトナムやフィリピンへの進出を検討している。17年7月期に10億円だった海外売上高を今期には16億円、早期に40億円まで引き上げる計画だ。

オーナー経営の“習慣”と決別

 国内でも、さらなる成長を目指して改革が進んでいる。一つが、商品開発テストだ。これは商品のコンセプトが消費者にどう評価され、正しく認識されているかを調査し、このテストに合格したもののみが、試作に進めるというものである。

 この改革を主導するのは、昨年5月にカーライルがミツカングループから招聘してきたマーケター、高口裕之・専務執行役員。高口氏は「市場に様々な商品があふれる中、ヒットを生み出すには商品の世界観やストーリーに共感してもらうことが欠かせない。そのためには、コンセプトを正しく伝えられる商品である必要がある」と話す。既にマーケティングの機能を強化し、松田氏の「動物的な嗅覚」に頼った商品開発からの脱却を進めてきた。今後、より合理的な手法を商品開発に取り入れることで、オーナー経営時代に染みついた体質と完全に決別する。

 もう一つが、会議の見直しだ。手島社長は「松田氏からの引き継ぎ期間で感じたのは、『社長に任せておけば大丈夫』という空気。その意識を変えるために、会議の座る位置を変えた」と話す。

 これまでおやつカンパニーでは、どんな会議でも、社長である松田氏が中心に座り、全てを決めていた。そこで、手島社長は会議の中心に座る人物を、会議の議題の責任者に変更した。例えば、営業部門が主管の会議であれば、中心に営業担当の役員と営業本部長が座る。社長はその横で議論を見守り、必要であれば助言する。

 「最初は皆、私の顔色をうかがっていたが、半年もしたらきちんと自分たちで決められるように変わった」(手島社長)。責任者は誰かを明確にすることで、松田氏がいなくても従業員が自ら考えて、営業や商品開発方針を決めていく基礎が醸成されつつあるという。

 ただし、こうしたファンドとの二人三脚はいつまでも続かない。カーライルが投資家である以上、いつかは株式を売却する。問題は、そのエグジット(出口)がいつ、どのように訪れるかだ。

 カーライルの富岡氏は「エグジットまでに、台湾工場が利益に貢献し、マーケティング機能を強化したことによるヒット商品が出ることを期待している。19年7月期は、とても大事な時期になる」と打ち明ける。一方、松田氏も「(エグジットの方針は)カーライルと一緒」と話す。カーライルの出資後、売上高は右肩上がりで増加している。18年7月期のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)率は台湾工場の稼働などが寄与し、13%に達する見込みだ。

カーライル資本参加後、稼ぐ力は高まっている
●おやつカンパニーの売上高とEBITDA率の推移
カーライル資本参加後、稼ぐ力は高まっている<br /><small>●おやつカンパニーの売上高とEBITDA率の推移</small>
[画像のクリックで拡大表示]

 一般的には「ファンド」と聞くと「ハゲタカファンド」という後ろ向きな印象を抱く経営者やビジネスパーソンは少なくないだろう。だが、松田氏は「ファンドは怖がらなくていい。大事なのは相手の持っている力をうまく活用することだ」と言い切る。

 「海外展開はファンドの力を借りればスピードが上がるし、成功確率も高くなる。ファンドとのコミュニケーションを密にすれば、互いを信頼できるようになる。実際、僕がダメだと思ったときは、はっきりそう伝えて、全てカーライルと一緒に決めてきた。創業家もファンドも、会社の価値を高めたいという思いは同じですよ」(松田氏)

 経営難に陥った上場企業が、ファンドの力を借りて再建を目指すという事例は増えている。だが、おやつカンパニーのような非上場の中小・中堅企業でも、高い技術や知名度があれば、ファンドの力を借りることは可能だ。

 事業継承や海外展開など、永続的に会社を成長させる戦略作りに苦労しているオーナー経営者は多い。自らの力で未来を切り開くのが難しいのであれば、ファンドのような外部の力を恐れず活用するのも選択肢の一つだ。非上場でも第三者が企業価値を正当に評価し、「欲しい」と言ってくれれば、育ての親としてのオーナー経営者にとっても、悔いはないはずだ。

INTERVIEW
手島文雄社長に聞く
目指すは世界の優良スナックメーカー
1962年生まれ。2003年にシック・ジャパンの社長に就任後、北アジア事業も担当した。背景は17年に刷新した新キャラクター「ホシオくん」(写真=菅野 勝男)
1962年生まれ。2003年にシック・ジャパンの社長に就任後、北アジア事業も担当した。背景は17年に刷新した新キャラクター「ホシオくん」(写真=菅野 勝男)

 シック・ジャパンでの仕事を中心に、30年間外資系企業で働いてきました。入社前、おやつカンパニーはユニークな会社だなと思っていました。実際に来てみて、夢たっぷりの商品を作っていこうというDNAが脈々と流れている会社で、イメージ通りでした。一方で、松田氏への信頼が大きい会社で、松田氏が決めることに対する安心感があったと思います。

 外資系企業ではKPI(重要業績評価指標)を明確にして、人材が入れ替わっても、仕事が回せるように組織づくりをしています。こういう点が当社は曖昧だったと感じています。今後はKPIを明確にすると同時に、職務の範囲や権限もはっきりさせ、個人が持つ能力や専門性を最大限に引き出していきたいと思います。

 同時に、マーケティングも強化していきます。従来よりもデータを活用するなど科学的なプロセスを重視します。1月29日に発売する「クリームデリ」という商品は好まれる味や濃さ、パッケージ、価格などを1つずつ調査して、製品開発に反映させました。こうした調査をやらなければ、数カ月前に商品を発表できたかもしれませんが、戦略的な商品なので時間を犠牲にしました。根拠に基づいたロジックのある新製品を開発していきますが、当社の強みであるスピード感は失わないようにします。 

 海外は台湾工場を起点に中国本土や香港、台湾の3地域の消費者の好みや生活に歩み寄った商品を展開していきたいですね。東南アジアも、昨年に展開を始めたタイの結果を見ながら、今後の戦略を考えていきます。

 当社には、世界の優良スナックメーカーを目指すというビジョンがあります。ユニークな商品を作り続けるDNAなどを強化すれば、決して夢ではありません。消費者や得意先から期待される商品を生み出し、利益率の向上にも努めていきます。(談)