カーライルは自社のネットワークを活用し、スナック菓子のアジア市場を分析。独資での進出か、現地企業との合弁か、過去の事例をつぶさに調べ、おやつカンパニーにとってベストな戦略を検討した。

 結論は、既に高い知名度と一定の売り上げ規模を持つ台湾に、独資で工場を設立すべきというものだった。そこで、工場建設に総額30億円以上の資金を投じることを決断。カーライルは工場用地の選定から契約、工場の運営経験や財務的な知見を持つ人材の採用も支援し、プロジェクトを主導した。

次の社長を誰にするか

 そして、台湾工場の準備に一定のめどが立ったころ、カーライルは次の準備に動いた。松田氏の後任探しだ。白羽の矢を立てたのが、ひげそり機メーカーのシック・ジャパン出身の手島文雄氏だった。日本だけでなく、北アジア事業を統括したことがあり、海外事業の知見が豊富だった。食品業界で営業とマーケティングを担当していた経験もあり、「まさに、求めていた人材だった」(富岡氏)。

 手島氏は17年3月1日付でおやつカンパニーの社長に就任。松田氏は代表権のない会長に退いた。そして引き継ぎ期間を終えた5月1日、松田氏は従業員を前にこう宣言した。

 「今月から全てのことが手島新社長の下で行われます」──。

 これまで全てを決めてきた松田氏が経営の一線から退くとの表明に、「しばらくは松田ロスになる社員がいた」(おやつカンパニー社員)というほど、社内には驚きが走ったという。

 松田氏は現在、取締役会には出席しているものの、日々の経営にはほとんど関与していない。松田氏は、「確かに会社は自分の子供のような存在です。でも今の私には100%やりきったという思いがあるから、(会社の経営から離れても)全然寂しくありません」と笑う。カーライルの資本受け入れから3年間を経て、松田氏自身、「子離れ」する心構えが固まった。

ファンド主導で海外展開加速

 松田氏が退任し、新たに社長に就任した手島氏にとっての喫緊の課題が、17年7月に稼働した台湾工場の活用だった。目指したのは、現地の消費者の嗜好に合った独自商品の開発である。

 台湾の現地法人を統括する深見岳央氏は、「日本と台湾ではおいしいと感じる味覚が違う」と言う。そこで、台湾工場には日本と同じように試作室を設置し、商品開発担当者を日本から1人出向させたほか、現地でも開発人材を採用。アジア向けの商品を現地で開発できる体制を整えた。

台湾工場は日本とほぼ同じ設備を使うことで、自動化率を高め、日本と同品質の製品を生産できる環境を整えた
台湾工場は日本とほぼ同じ設備を使うことで、自動化率を高め、日本と同品質の製品を生産できる環境を整えた
今年前半には台湾で開発したオリジナル商品の展開を目指す
今年前半には台湾で開発したオリジナル商品の展開を目指す

 「いやー。香りがきついし、この味はおいしくないのでは……」。試食をした日本の開発担当者が思わずうなる。目の前にあるのは、おやつカンパニーが今年前半の販売を目指すベビースターラーメンの台湾限定フレーバーの新商品、「台湾風空揚げ味」だ。

 台湾空揚げは、八角という中華料理によく使われるスパイスが効いており、台湾独自の食文化を体現した料理だ。日本人は八角の香りを癖が強いと感じることが多い。しかし、一方で台湾人のスタッフは「ハオシャン(いい香り)!」と話し、おいしそうに口に運ぶ。深見氏は「日本人はこの味を理解できないと思いますよ」と笑う。

 日本と台湾で異なる味覚は他にもある。例えばしょうゆの香ばしさ。日本人にとってはおいしいと感じる一つのポイントだが、台湾人にとっては焦げに感じてしまうという。そうした味覚の違いは香りや辛みの強さなど多岐にわたる。「台湾人の味覚を意識した商品を開発できる体制が整ったことで、より現地に溶け込み、売り上げを拡大していける」(深見氏)

 さらに現地に工場を構えたことで、これまでは「ベビースターラーメン」と太麺タイプの「ドデカイラーメン」しか展開できていなかった商品も増やせるようになった。現地向けに開発した商品と合わせて、狙うのは新たな売り場獲得だ。これまではスーパーやコンビニのお菓子売り場が中心だったが、日本のようにおつまみの売り場や、レジ横のような「ついで買い」が見込める売り場も検討する。「ナッツ類の棚に、おつまみラーメンのようなナッツが入ったスナック菓子が入り込める余地がある。日本のように旅行先でのお土産商品も考えている」(深見氏)

台湾工場稼働を機に海外展開を強化する
●おやつカンパニーの台湾での取り組み
これまではお菓子売り場での陳列が主だった
これまではお菓子売り場での陳列が主だった
ついで買いを促すような場所への陳列も狙う
ついで買いを促すような場所への陳列も狙う

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