そもそもあった商品開発力の強さにマーケティングの要素を加えて磨きをかけたように、“脱創業家”に当たっては組織の強さはどこにあり、それをどう残すか細心の注意が払われた。その強さの一つが、製造現場における、いわゆる「アメーバ経営」だ。

 製造現場が数人ずつのチームに分かれて採算を管理し、原材料の投入方法や梱包ラインなど細かな改善をし続けていた。そこで、こうした製造現場の活動にカーライルは介入せず、継続してもらうことにした。

 製造方法も特に変更しなかった。ベビースターラーメンの工場はほぼ自動化されており、材料の投入から箱詰めまで一連の作業に関わる人数は最小限に抑えていた。こうした取り組みで「利益率が同業に比べても高いことが、カーライルが資本参加を決めたポイントの一つだった」(富岡氏)。

INTERVIEW
カーライル・ジャパン 富岡隆臣マネージングディレクターに聞く
オーナー色の強さを「相互信頼」で克服
日本長期信用銀行などを経て、カーライル・ジャパンに。コンシューマーやヘルスケア業界を担当する。(写真=北山 宏一)
日本長期信用銀行などを経て、カーライル・ジャパンに。コンシューマーやヘルスケア業界を担当する。(写真=北山 宏一)

 おやつカンパニーへの投資を決めた理由の一つは、「ベビースター」というオンリーワンの製品を持っている点です。定番ブランドを維持するのも大変な時代にもかかわらず、今も高い認知度を誇っている点を評価しました。もう一つは利益を生む生産体制です。製造と営業の連携が密にされており、製販調整のレベルが高い。それに製造現場にアメーバ経営を10年以上前に取り入れて生産性も改善してきており、非常に鍛えられていると感じました。

 一方で、我々と組むことで、アジアを中心とする海外事業とマーケティングを強化し、企業価値をより高められると考えました。海外は現地での高い認知度を生かして現地生産に切り替えれば、多くの商品をアジアに投入できますし、輸送コストも低減できます。マーケティングで消費者のデータをもっと活用すれば、従来以上に商品の成功確率を上げることができると分析しました。

 この3年間で、我々はおやつカンパニーの文化を理解し、価値向上に向けて足りない人材を採用し、インフラを整備してきました。特に松田氏という天才経営者がこれまで担ってきた仕事を、次世代にどう引き継ぐかということが焦点でした。取締役会の見える化も、その一環です。松田氏以外の役員や従業員でも経営の状況が分かるようにする必要がありました。

 これらのインフラ整備にめどが立ったので、新たに手島社長を迎え入れました。ここからは台湾工場の稼働率を上げることで利益貢献ができるようにしないといけません。新設したマーケティング組織で、国内でヒット商品が生み出せるかも重要です。今春から半期ごとに戦略商品を投入する予定で、この成果を見て我々はエグジットの時期を考えます。

 おやつカンパニーは我々が経営に参画してきた中でも、特にオーナー色の強い企業でした。それでも改革が順調に進んでいるのは、密なコミュニケーションを心がけ、お互いに信頼できたからでしょう。 (談)

ファンドの知恵借り工場建設

 脱創業家のための組織改革を進める一方、さらなる成長のための足場固めの準備も始めた。それが、松田氏がカーライルと組んだもう一つの狙いである、海外事業の強化だ。

カーライルが海外展開を全面的に支援した
●カーライル資本参加後のおやつカンパニーの海外事業の主な変化
カーライルが海外展開を全面的に支援した<br /><small>●カーライル資本参加後のおやつカンパニーの海外事業の主な変化</small>
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 もともと、おやつカンパニーは30年以上前から台湾や香港などに商品を輸出してきた。特に台湾では、「ベビースター」のブランド認知率は80%以上というほど知名度が高い。現地の大手コンビニエンスストアにはかなりの割合でベビースターが陳列されている。

 それでも、海外売上高は約10億円にとどまっており、さらなる拡大には抜本的なてこ入れが必要だった。輸出モデルに限界があったのである。

 スナック菓子は軽いのにかさばり、業界では「空気を運ぶようなもの」と言われる。売価も安く、輸出で採算を取るのは難しい。そのため、多くのメーカーが海外に工場を建設してきた。

 だが、松田氏の目には成功している企業は見当たらなかった。「海外に工場を造りたいが、競合他社はどこも失敗をしている。やはり難しいか」。松田氏は工場をどのように建設したらよいか、悩み続けてきた。そこで頼りにしたのがカーライルだった。

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