経営判断は常に、松田氏が全て下していた。商品開発も例外ではない。1999年発売のカップ入りスナック菓子「ラーメン丸」は、松田氏自身が競合の動きを察知し、発売時期を半年前倒しした。現場は大混乱したが、結果としてラーメン丸は市場に定着し、人気商品の一つになった。2007年に発売してヒットした、フランスパンをチップスにした菓子「フランスパン工房」も、松田氏が「脱ラーメン」を目指して開発を続けてきた肝煎りの商品だった。

 松田氏の発想や決定は、幾度もヒット商品を生み出してきた。だが、皮肉なことに、それによって松田氏に依存する体質が組織の隅々まで染み込んだ。

 こうした体質は新たな資本が入ったからといって、すぐに変わるわけではない。カーライルはまず、会社の中枢から「考える」ことを習慣付けることから始めた。切り込んだのは取締役会だ。

時代の変化に合わせて、商品を進化させてきた
●おやつカンパニーの主力商品の歴史
1959年
1959年
ベビースターラーメンの前身「ベビーラーメン」誕生。 1袋10円で発売
1988年
1988年
キャラクターを 一新。味噌や カレー味も加わる
1999年
1999年
太麺やナッツ 入りを発売。 大人向けの 市場を開拓
2000年〜
2000年〜
フランスパン 工房など登場。 ベビースターに 次ぐ柱を育成
2018年
2018年
クリームデリを 1月29日に発売。 カーライル資本 参加後、初の戦略商品

会議資料の改善からスタート

 まず、経営の監督と執行を明確に分けた。カーライルは社外取締役4人を派遣。従来の取締役7人(1人は社外)のうち、社外取締役は退任し、常勤取締役3人は退任後に執行役員となった。

 ただし、ファンドが取締役の過半数を押さえても、それだけでは自律的な成長はできない。目指したのは、取締役会という意思決定機関の機能の正常化だ。「取締役会というのは名ばかりで機能しているとは言えなかった」(富岡氏)

 では、どのように機能を正常化したのか。意外にも、その手法はシンプルだ。経営会議資料の充実である。

 それまで会議で配布されていたのは、売上高などのデータを羅列しただけの、紙1枚の資料だった。そこに、市場トレンドや競合他社の動きなどの分析を加えることで、「経営を見える化」した。それにより、松田氏以外の経営幹部も自ら戦略を考えられるようにした。

 おやつカンパニーには充実した経営資料を作成した経験がなく、当初の資料はカーライルの傘下に入った他の企業と比べても質が低かった。そのため、カーライルの担当者が何度も三重の本社に出張し、ノウハウを伝授。1年半もの時間をかけて、資料の改善を続けた。そこまでして初めて、松田氏の頭の中だけにあった経営戦略が、他の経営幹部にも共有された。それにより、多くの社員が少しずつ自社の経営について考えるように変わっていった。

 次に、カーライルが取りかかったのが、マーケティング組織の新設だった。現在、新設された開発・マーケティング本部の本部長を務める稲垣庄平・常務執行役員は「世に出す商品のうち、市場調査を参考にするのは半分程度にとどまっていた」と打ち明ける。開発本部で市場調査を実施しても、販売促進を担当する部署と連携しておらず、マーケティングそのものを担う組織もない。商品発売後の販促効果の検証なども不十分で勘に頼る面も多く、中長期的な視点も欠けていた。

 逆に言えば、そうしたマーケティングを実施しなくてもヒットを生み出せる開発体制には、強さがあった。それが、スピードだ。

 スナック菓子市場ははやり廃りが速い。そこを逆手にとり、同社は時間をかけて戦略的に商品を開発するよりも、スピード重視でどんどん新商品を投入してきた。その結果、商品点数は増える一方だった。富岡氏は「マーケティングをしっかりやって商品の当たり外れの振れ幅を小さくすれば、もっと成長できる」と狙いを説明する。

「勘」から「データ」重視へ

カーライルと協力して、「強み」を残し「弱み」を改善した
●カーライル資本参加後のおやつカンパニーの社内改革の概要
カーライルと協力して、「強み」を残し「弱み」を改善した<br /><small>●カーライル資本参加後のおやつカンパニーの社内改革の概要</small>
[画像のクリックで拡大表示]

 マーケティング組織の新設に当たり、外部のコンサルタントがマーケティングの基礎から効果的な商品企画のノウハウ、他社商品の開発事例などを教えた。そのうえで、どういう組織を作れば、おやつカンパニーの強みを生かしたマーケティング活動ができるようになるかを、現場に考えてもらった。

 導き出された結論は、マーケティングと商品開発を1つの部門として一体化することだった。おやつカンパニーの強みである商品開発のスピード感を生かしたマーケティングを展開するには、別組織にしない方がいいとの判断だ。

 こうして15年8月に誕生した開発・マーケティング本部が手掛けた商品の一つが、16年8月に発売したフランスパン工房をベースとした「宅バル」という商品。家飲み需要の増加に伴い、酒のつまみの市場も好調な中、おやつカンパニーではビールのつまみを意識した「ラーメンおつまみ」の売れ行きが好調だった。つまみ市場に関連する動きを調べたところ、酒の中でもワインの消費量の増加が大きいことに気付いた。フランスパン工房で磨いたパン素材が合うのではと考え、「海老のアヒージョ味」を開発。徐々に新組織の成果が出始めている。

次ページ ファンドの知恵借り工場建設